4-12 何とかなるもの
シロがいなくても、社はまわる。
社の司、禰宜、祝。トップ3の一人が寝込んでも、2トップが残っている。
祝女頭サカ、祝人頭ナガもいる。それぞれ、与えられた事を、しっかりこなす。釜戸山に怠け者はいない。
シロだって、ズレてはいるが、働き者だ。今は、ノビているだけ。
増えに増えた罪人たち。一人で裁くわけではない。皆、力をあわせ、助け合いながら裁く。責を任せられるのは祝。かといって、丸投げしない。昔からそうだ。
「川北の国、湖のこと。」
欲張りな話だ。大甕湖は川北のもの。だから認めろ、というのだから。
「野呂の、鷲の目が来ています。」
強いぞ、野呂は。獣のように強い。そして、人を助ける。
「祝の許しを得、釜戸社へ参ったと。」
野呂の祝は、心を読む。鷲の目が見聞きした、それだけではない、何かを読み取った。そんなところだろう。
「次、豊田の国、人探し。」
豊井の村から豊田の村へ、嫁ぐはずの娘が消えた。山狩りの許しを欲しい。というもの。
「谷河の狩り人が来ています。」
霧雲山の村。何代か前の、祝辺の守が決めた。いや、頼まれたとか。
山裾の地から逃げ出した、そういう人たちを見つけ、助ける狩り人。犬や鷲を従え、霧雲山から、山裾の地。山裾の地から、霧雲山へ。二人で行って、帰る。
「助けたのか。」
見つけて、話を聞き、どこかの山の、村長に託す。誰を、いつ、どこへ、とは、決して言わない。祝辺の守が、言わせない。
ただ、助けたかどうか。それだけ。
「豊田の言い分を聞いてから、答えると。」
そうなる。
「まず、豊田。」
皆、サッと首を垂れる。
「話を聞く。聞くが、助けない。嫌だから逃げた。山の奥に。他の村ではない。山へ。」
落ち着いては、いる。が、お怒りだ。
「犬か、鳥か。」
祝、モフモフする気ですね。
「犬です。」
フフッ、済んでからですよ。
「次、川北。」
そうなりますね。
「野呂だけか。獣山の子は。」
「守り人の村に。できれば、どこかの村で暮らしたい。そう言って、泣いたそうです。」
「どこから逃げた。」
「早稲から、と。」
「早稲の子か。」
「いいえ。元は、ずっと南。村が襲われ、逃げ込んだようです。」
「親は。」
「早稲に逃げて、すぐ。聞く限り、病かと。」
「二人、いや三人だったか。」
「はい、兄と妹。他の村の子、一人。」
「早稲から獣山。助けなく。」
「早稲の、外れに暮らす人に。舟に乗せられ、底なしの湖まで送ってもらったと。」
「ふん。送って、終わりか。」
そりゃ、そう思いますよね。
「早稲の村長から命じられ、他の村へ行かなければならない。あの山は獣山。熊がいない山だ。悪い人がいるかもしれない。だから、ツヤツヤした馬に乗った人を、頼りなさい。そう、言われたそうです。」
見捨てた、のではなく、救った?
「そうか。子だけ残すなら、獣山か。」
底なしの湖、川は五つ。子だけで生きるなら、獣山。
「はい。馬守の村からは離れますが、熊に襲われることは、ありません。」
運が良ければ、霧雲山の、誰かに。
「悪い人も、馬に乗る・・・・・・。ツヤツヤした馬、馬守の人。ふん、そうか。」
明るい声だ。
「済んだら、日吉へ。」
「はい!」
ノビていたシロ、飛び起きる。




