8-63 ヨソの子でも
早稲。誰でも知ってる、悪い村だ。子を攫って鍛えて、戦場へ放り込む。女なら、子を産まされる。
どうしよう。悪い人に見つかっちゃった。戦なんて嫌だよ、帰りたいよ。
「シン。」
「ひゃい。」
「中主は隠れ里だ。この辺りだと思うが、分かるか?」
・・・・・・えっと。
「チロ、オマエは分かるか。どうだ。」
「クゥ、キャン。」 チカイ、イマス。
このニオイ、忘れないよ。ボクの耳を射貫いた、悪い子たち。ってコトは、里も近いね。帰れるよ。良かったね、シン。
「良く分からんが、近そうだな。子が居る。」
「そうなの?」
「あぁ、居る。」
『攫い慣れてる』なんて、言えねぇ。もう子は攫わない。次は無いんだ、オレは死ねない。だから攫わない。
早稲に戻って、驚いたよ。アイツら攫いまくってた。南とか、西とか東で。北から手を引いたのは、釜戸山がコワイから。
ヒトを締め上げて、集めさせた。他所のはオレだけで良い。一人づつ話を聞いて、残りたいのは残し、他は帰した。
帰りたがると思ったのに、残りたがるのが多かった。早稲よりヒドイのか、他は。
あの時は足、引き摺ってたからな。子を返すのはセイに任せた。帰る家が無いって、泣かれたよ。戦ってのは嫌だねぇ。放り込まれるモンの身にも、なれヨ。
「ヴゥゥ、ワン!」 ワスレンナ、カミコロス!
「オイ、コラ! 何してる。」
十くらいの男子が三人、木に繋いだ犬を的に、弓を射ていた。近くには、外れ矢がドッサリ。犬の体には、幾つもの矢傷。
悪たれ者を取っ捕まえ、ゲンコツを食らわす。悪い事をすれば罰を与えるのが、大人の務めだ。ヨソの子でも許さん!
「イテェな、何すんだオッサン。」
ゴンッ。
「ワァァァァァァン。」
ガコッ。
「泣くなヤカマシイ。」
ギロリ。
カツは強面、迫力満点。戻ってから日が浅いので、力は弱い。とはいえ、鬼教官の鉄拳制裁。手加減したのにアゴ、外れてマス。
「ヨォシ、ヨシ。痛いよな。手当てするから、ジッとしてろ。良いか。」
「ウヮン。」 オネガイシマス。
水でシッカリ洗い流してから、傷薬を塗りこむ。額の傷は癒えても、跡が残るだろう。
「気になっても、触るなよ。」
「ワン。」 ハイ。
「ホガッ。」
泣いて殴られたんだ。騒いだら、ここっ、殺される。
「動くなよ。」
ガコッ。
「ヨシ、直った。」
外れた顎を元に戻し、ニゴォ。
「里まで連れてけ。」
コクコク頷く、悪たれズ。