8-62 なんだっけ
「ワァァ!」
ガバッと、タエが飛び起きた。
「ここは。」
そうだ、良村だ。みんな、どこ?
「おはよう、タエ。おみず、のむ?」
瓢箪を持って、マルが入ってきた。
「ありがとう、マル。」
手渡され、ニッコリ。それからゴクゴク。
「おいしい・・・・・・。」
あれ、なんで涙が出るの。なんで止まらないの。私、壊れたのかな。
「イイコ、イイコ。」
マルに撫でられ、スッと心が軽くなる。
「ねぇ、マル。」
「なあに、タエ。」
どこか分からない。とても広くて、開けた地。そこで使われるのは闇の力。いろんな闇を操って、それで、それで。
「あれ、なんだっけ。」
キュルルゥゥ。・・・・・・ポッ。
「ごはん、たべよっ。おひるらよ。」
「そうなの?」
「うん。」
ニコッ。
「キュゥゥ。」 カエロウヨォ。
もう! そんな目で見つめられたら、照れちゃうぞ。あのね、ボクこんな耳だけど、分かるんだ。帰りたいんでしょ?
「ねぇチロ。ここ、どこ?」
・・・・・・エッ。
「グスッ。帰りたいよぉ。おかあぁさぁん。」
仔犬を抱き上げ、オイオイ泣き出した。
ガサッ、ドッドッ。
大きなイノイシが目の前に。体に矢が、いっぱい刺さっている。息が荒い、目がコワイ。怖いよ。
「ヒッ。た、すけ、て。」
尻餅をついたまま、ガタガタ震えて動けない。
「ウゥゥ。キャン、キャン。」 クルナ。アッチイケ、シッシ。
悪い子に捕まって、木に縛り付けられて、弓の的にされた。ヘタッピで中らなかったのに、射貫いたんだ。左の耳をさ。
痛かった。
そしたらシンが、『わぁっ』って叫びながらソイツら、ポカポカ叩いて追っ払ったんだ。良い子なんだ、だから来るな!
シュン、トストストスッ。グワン、バタッ。
「ん、ドコの子だ。・・・・・・オイ。」
「キャ、キャン。」 オネガイ、タスケテ。
「仔犬と出て来たってコトは、近いな。中主か。」
「カツさん。連れて帰って、仕込みましょう。」
「アァン? もっぺん言ってミロ。」
クワッ。
「すっ、すんません。」
「オイ、オマエら。獲物を担いで早稲に戻れ。オレは親に、この子を届ける。」
「名は。」
「チロ。」
「キャン。」 チロデス。
「で、坊の名は。」
「シン。」