8-59 誰か教えて
「良山の湧き水です。ささ、どうぞ。」
涎を洗い流した、平良の烏を持て成すオミ。
「カァ。」 アリガトウゴザイマス。
羽繕いを終え、ゴクゴク。
平良は知っていた。大蛇神も良村も、マルを決して渡さないと。
蛇神、大蛇。はじまりの隠神で在らせられる。その愛し子が、良村のマル。祝の力が有ろうが無かろうが、死ぬまで離れない。それが愛し子。
良村では子は宝。死んだ親たちに代わり、慈しみ育てる。どこで生まれた誰の子でも、引き取れば皆、良村の子。大人になるまで、決して手放さない。
祝辺の隠の守は、追い詰められていた。
人の守を、統べる地の長に。なのに戻らない。霧雲山を守るには、山の力を得るには、強い祝の力が要る。
言うまでもなく、マホに止められた。
根の国の物を口に詰められ塞がれて、隠の世に放り込まれた、あの隠の守です。凄い勢いで詰め寄られ、コンコンと諭されましたが、この通り。
烏に罪はアリマセン。隠の守に乗り移られ、飛んで来たダケ。祝辺に仕える烏です、断れません。トホホ。
「隠の守、なぜ良山へ? 霧雲山から獣谷へ飛ぶなら、通りませんよネ。」
ニコッ。
「それは・・・・・・。」
マズイ、まずいゾ。『何としても愛し子を』なんて言えば、ゴクリ。おっ、奥津城に放り込まれる。マホから聞かされた、あの。
嫌だぁぁ! こわいコワイ怖いよぉ。
どうしよう、何て言えばイイの。ねぇ、誰か教えて。って、聞けないよ。終わった。いやイヤ、諦めるのは早い。考えろ、捻り出せ!
「羽を休めるのに、良い木が多いので。」
ニコリ。
「あぁ、聞いたコトが有ります。柞の大木ですよね。」
「はい、そうです。」
ホッ、良かった。あるんだ、羽休めの木。
フッ、嘘ですね。確かに生えています。村ではなく、舟寄せの近くに。さぁて、どうしましょう。
守の狙いはマルさま。『何としても』なんて、考えているのでしょう? 強い祝の力が欲しいからって、イケマセンね。
「それはオカシイ。村の近くに、大木はナイぞ。」
ニョロッと大蛇、参上。
「なぜ、村の近くだと?」
「平良が生かされて居るのは、近づいたのが村だから。マルに近づけば、犬に嚙み殺されるだろう。」
・・・・・・。
「西で生まれたバケモノが、霧雲山に来る。山守社にも伝えたぞ。聞かなんだか?」
「なっ、それは。いえ、これにて。」
隠の守。急ぎ、祝辺へ。
「さぁ着いた。」
シンが慣れた手付きで、舫い杭に縄を掛ける。舟寄せに寄せられた舟から、マルコがタッと飛び降り、尾を振りながらタエを迎える。
「オレ、良村のアオ。掴んで。」
舟寄せで待っていたアオが、タエに手を差し伸べた。
「あ、りが、とう。」
ゆっくり舟から降り、マルコを抱き上げる。
「クゥン?」 ドウシタノ?