8-58 甘噛みデス
冬を越すため、みんな大忙し。どの倉もキチンと整え、納め入れられた食べ物でいっぱい。村の近くにある洞の中にも、しっかり納められている。
薪は村を囲うように、ズラッ。セッセと割っては、並べて積む。良山は冷えるから、たっぷり備えなければ。そんなワケで、山の中にもキレイに並べられている。
「ホォ。これは、これは。」
ウットリなさる、大実神。
「大きくなりましたね。」
ずっと昔、この山に人が入った。泉の回りを切り開き、棲みつき、大実と呼ばれるように。
睦み、子が生まれ、賑やかになった。ゆったりと時が流れ、この幸せがいつまでも。
続かなかった。
春になっても寒さが続き、雨が降らず困り果てた時、嵐が全てを薙ぎ倒す。蓄えが尽き、食べ物に困り、山の幸を求めて争いだした。
生きるため一人、また一人。アッという間に、山から人が消えた。あんなに賑やかだったのに、あんなに豊かだったのに、もう誰も。
シゲが来た時、嬉しくて飛び上がった。
切り開かれた地には若木が根を下ろし、枝葉が揺れている。泉はコンコンと湧き続け、涸れる事はない。少し手を加えれば、しっかり暮らせる。だから頼む。
朝になり、ボソッと言われた。『こりゃ、棲めないな』と。そうだ、この山は冷える。なぜか、他の山より冷えるのだ。小さいが出で湯も出るのに、とても冷える。
大実神が御隠れ遊ばすまでは、この山で。諦めかけた時、人が越してきた。早稲から人が、この山に。子に犬、鶏まで。
釜戸の祝から認められ、新しく作られた村。早稲の生き残りが、残された子のために作った村。『良い村に』と願い、良村と名付けられた。
「そろそろ酒を。」
やまとの神は、御酒好き。
「確か、サルナシで。」
使わしめオミ。遠くを見つめ、ポツリ。
「米のが良いのだ、米の。」
大実神、力説。
「酒なら、霧雲山から。」
平良に乗った隠の守、ニッコリ。
「気持ちだけ、いだたきます。」
オミがズバッと、断った。
「なっ、なんと。」
「大実神、社へ。」
「いや、しかし。」
「社へ。」
オミを怒らせてはイケナイ。社を出られては困る。にしても、少しくらい・・・・・・。チラッ。
わわっ、分かった。そんな目で見るでナイ。戻ろう、大実社へ。
「祝辺の守、こちらへ。どうぞ。」
良村の後見は、釜戸山である。霧雲山ではナイ。
「いえ、私は。」
ココに来たのは、愛し子の気を引くため。だから村へって、アレェ?
「ホウホ、ホヒハヘ。」
離れようとした、その時。パクッ。勿論、甘嚙みデス。犲は狼と違って、狙った獲物は逃さない。
犲も狼も同じ? いいえ。イヌはイヌでも大違い。
犲こと、ニホンオオカミ。狩りの名手で、一匹でも果敢に攻めます。諦めません、狩るまでは。それが犲。
対して狼は最高のハンターなのに、諦めが早い。
リーダー自ら考案した作戦が失敗しそうになると、作戦変更したくなり、後日再挑戦。策士策に溺れる! それが狼。