8-56 揺れるとは聞いていたが
『兵を集めよ?』 集まるワケが無い。
耶万にはバケモノが居る。仕掛ければ、必ず殺される。戻れるのは、たった一人。誰だって死ぬのは嫌だ。遠く離れた耶万より、近くの国に仕掛けろよ。
『奪わなけりゃ、冬は越せない?』
まぁ、あまり実らなかった。雨は降ったし、日も照った。なのに少なかった。
「恐れながら申し上げます。琅邪王、兵と共に耶万へ。さすれば兵も勇み立ち、弾みがつくでしょう。」
儺升粒に言われ、琅邪王は怯む。戦は好きだが、死にたくない。それが本音。
『代わりに倅を』と言いかけ、止める。あれだけ居たのに、残った倅は儺升粒だけ。残りは死んだり、殺したり。
マズイ。コレを送れば、身代わりが。戦ではなく、裏切られ死ぬなど決して。となれば、いや。
「それは良い考えですね。」
「王と共に戦えるとは、羨ましい。」
「兵たちも喜びます。」
臣たちが声を張り上げ、見つめる。ここで『行かぬ』と言えば、どうなる。えぇい、儺升粒め! 謀ったな。
「整いました。さぁ、この中に。」
卑呼男から手渡されたのは、大きな皮袋。
「こっ、コレに?」
「はい。」
儺升粒は父、琅邪王を耶万へ送るため、酒を勧めて酔い潰した。夜が明けたら浜へ連れ出し、舟に乗せる。今のトコロ、上手く運んでいる。
卑呼女は祈りを捧げるため、社に籠った。空の声が聞こえるなんて大ウソ。雨が降る少し前になると、足が痛むのだ。他に知っているのは弟、卑呼男だけ。
三人が力を合わせ、演じる。儺升粒は、兄の敵を討つため。卑呼姉弟は、国を一つにするために。
「夜が明けるまでに入り、隠れてください。琅邪から向こう岸に着くまで、かなり揺れます。舟の中では、飲み食いを控えてください。」
中の西国に着くまで、お預け。鎮の西国を出るには、他に手は無い。
「分かった。」
「では、私はここで。そうそう。言い付け、守ってくださいね。」
もし儺升粒たちを食らったら、海は渡れない。夜に動けば射殺され、朝に動けば焼け死ぬ。そう言われた。
あの目、本気だ。だからアンナもマリィも信じた。卑呼姉弟には、特別な力が有ると。
海さえ渡れば食い放題。ソレは扨置き、エンを連れ帰らなければ。大王の命は絶対。任務遂行のため、今は控えよう。
「分かっている。」
「では、さようなら。」
夜明け前。袋に入り、戦の具に隠れた。舟底には日の光が入らない。そのうち待ちくたびれ、ウトウト。
琅邪王が兵を引き連れ、浜に来た。ガヤガヤ騒がしくなり、目を覚ます。用意された舟は二隻。この舟に、王が乗るらしい。
ズズズ、ザッバァン。
勢い良く海へ。揺れるとは聞いていたが、グワッと乗り上げグンと下り、横にも揺れる。コレはヒドイ。
ウッ。気持ち、悪い。吐きそう。