表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
大貝山編
571/1584

8-55 それでも王か


卑奴婢ひぬひめかんなぎを呼べ。」


「ハッ。」



何がバケモノだ、殺されるだ。殺し、奪い合うのがいくさ。刈り入れも済んだし、追い風だ。スイスイ進んで、サクッとイタダク。


耶万やまを落として根こそぎ奪い、戻れば冬が越せる。春になったらを攻め落とし、いづ大王おおきみとなるのだ。


耶万の夢を使えば、この手に。クックックッ。






卑呼ひこの、巫に取り次げ!」


おみの一人が、ボロ屋の前で叫ぶ。


「はい。暫く、お待ちください。」



卑呼姉弟は、奴婢ぬひから生まれた。母は同じだが、父は分からない。珍しくも無い、それが奴婢。


卑呼女ひこめは育つのが早く、八つで穢された。他の子は、早くて十。二つ下の弟、卑呼男ひこおは戦った。


姉を助けようと立ち向かった。しかし投げられ、殴られ蹴られ、死にかけた。



卑呼男は姉を守るため、狩りを覚えた。


山に入る許しを得てから、毒に手を出す。何を、どれくらい与えれば、どのように死ぬのか。姉を救うには力が要る。狩りだけじゃ足りない、毒で補うんだ。



姉弟に名は無い。奴婢が産んだ、奴婢の子だ。女は卑呼女、男は卑呼男。皆、同じ。卑しく、呼ばれれば喜んで来るやっこ。それが卑呼。



子が生まれても、三つまでに死ぬ。生き残っても、五つまでに死ぬ。また残っても、七つまでに死ぬ。ほとんど育たない。だから皆、名無し。


むくろは犬の餌になり、残りは貝殻や獣の骨を捨てる穴に、ポイ。




「お待たせしました。」


「来い。」



卑呼女は九つの時、卑呼男を連れて逃げた。聞いたのだ。弟が八つになったら、戦場いくさばで穢すと。


七つと九つの幼子おさなごが、飢え痩せ細った幼子が、死に物狂いで逃げた。逃げて逃げて逃げて、放たれた犬に見つかり、捕まった。



姉は諦めなかった。大の男に体当たりし、弟を取り返す。直ぐに手を引き、逃げた。しかし連れ戻される。足の骨をバキッと折られ、もう逃げられない。


卑呼女は、一人では歩けない。だから卑呼男が肩を貸す。横抱きにして歩けるが、出来ない。奴婢だから。足が悪くても、死にそうでも決して、許されない。






「遅い!」


側女そばめはべらせ、琅邪王ろうやのきみ


「申し訳ありません。」


姉が謝罪し、弟と共に平伏す。



何も言わず、睨みつける儺升粒なしょぶ


心の中で毒づく。『足の悪い女を呼びつけておいて、歩かせておいて、何だ! それでも王か。殺す、殺す、殺す。兄さんのかたき、必ず討つ。民のために死ね、琅邪王』と。




卑呼姉弟も似たようなモノ。奴婢なので、身を低くしたまま動けない。いつもの事だ。しかし、その心は。



『姉さんには、雲の流れが分かる。その力に頼りきっているクセに、偉そうに。あぁぁ! 殺したい。でも、まだだ。コイツは朝まで生かしておく。それまでは楽しめ』と毒づき、牙をぐ。


『空の事、知りたいんでしょ? 海、渡りたいんでしょ? 少しくらい待ちなさいよ。聞きたいなら来れば良いのに。呼びつけておいて、何その言い方。まぁ良いわ、許してあげる』と毒づき、牙をく。




「空と海について、申し上げます。夜明けから昼まで、風が海を押さえ、静まります。」


「それは良い! つわものを集めよ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ