4-11 禰宜のささやき
あぁ、何だって伯父さんが、社の司なんだ。
ナガさんに任せようよ。あの方は、あのお方は。命と引き換えにエイさまを産んだ、愛しき人を思いつづけて。何度も、何度も、後添いを断っている。
たった一人の娘にだけ、ではない。生きとし生けるものに向けられる、優しい眼差し。弱きを助け、強きを挫く。あれほど美しい人はいない。
はぁ、情けない。まったく、この伯父は。ナガさんを見習え。少しは考えろ。
霧雲山には、強い力を持つ祝が多い。何か起こる前に、木菟や鷲の目、狩り人たちが動くだろう。それだけの力があるんだ。ここは釜戸山、霧雲山じゃない。
他の山で起こったこと。騒いで、どうする?
助けを求められたか? 違うだろう。お叱りを受ける前に、黙らせよう。
「シロさま、お聞きでしょうか。霧雲山の神が、御姿を現わされたと。」
厳かに言う。
「な、なんと。」
わぁ、食いついた。
「ひかり輝く霧につつまれ、ゆっくりと。」
ゴクリ。ゆっくりと、どうなされた?
「御髪は実った稲のよう、瞳は薄い紫で。」
で。でっ?
「空のように青い衣を纏い、白い獣を従え。」
従えっ。
「微笑まれながら、ゆっくりと。」
ゆっくりと?
「御姿を隠された。そして。」
そ、そして?
「雪のように、冷たぁい風が吹き。」
つ、冷たい。ゴクリ。
「二人いた狩り人の、一人が倒れ。」
た、たおっ、れ?
「冷たくなって。」
なって?
「スゥと。」
ヒィ、ヒョ、ヒョエェ。バタン。
「眠ったそうです。伯父さんっ。」
そう、眠ってしまっただけ。朝、スッキリと目覚めました。
気を失って、倒れたシロ。そのまま放って、テキバキ働くロク。サカが微笑み、知らんぷりした。そうなると、誰も気にしない。哀れ、シロ。
「おはようございます。」
ニコニコ。
「エイさま、おはようございます。」
ん。と首を傾げ、フフゥンという顔をした。
「シロ、寝坊助。ね、父さま。」
「寝坊助・・・・・・なの、かなぁ。」
「うん。寝てるもん。」
「そうだね。」
お気になさらず。にしても、よく社の司になれたな。伯父さん、どんな手を使ったの? それは、さておき。
「ささっ、そろそろ。」
ロク。若いが、デキる禰宜である。
ちなみに。霧雲山の話には、続きがある。
二人とも、同じ夢を見るなんて。何かの前触れか! 急いで、祝辺へ。すると、守。
「何か、良いことがあるのでしょう。」
村に帰ると、好いた娘に言った。
「共に生きて下さい。」
「はい。」
断られ、てない!
「添い遂げたい。」
「はい。」
ハァ、やっぱり。って、えぇ!
良いこと、ありました。




