8-53 確かめなければ
敗れたが勝った。手古摺るも、この通り。
「マリィ。」
「はい、アンナさま。」
体を乗っ取り、奪い続けた。昼も動けるのだが、とても疲れる。日陰を選んで進むが、力が吸われるようだ。
昼はバケモノ、夜は我ら。そうして蓄えた力を保つため、餌ではなく駒として、選ぶようになった。
人は愚かで醜い生き物。心の隙や弱みに付け入れば、操るのは容易い。
「あの男。他とは違う、何かを感じる。」
「はい。獣より、人を。」
目が違う。瞳の奥に宿る、どす黒い闇。離れているのに、グッと引き込まれるようだ。アレはイケナイ。近づけば昼でも夜でも、スッと。
力では負けない、けれど勝てない。アレは人なのか?
里や村、国をも滅ぼすバケモノ。
噂では『人と妖怪の合いの子』で底無し。食らっても食らっても、決して満たされない。そのバケモノが、違うバケモノを食らった。で、体を乗っ取られたと。
「また会いましたね。狙いは?」
「オマエを食う。」
「嘘はイケマセン。人の助けが、要るのでしょう?」
コイツ! いや待て、使えるかも。
「なぜ、そう思う。」
「分かるんですよ、生き残りなので。」
『殺そうと思ったが、気が変わった。まだ使えるから』そんな目ですよ、バケモノさん。
何を考えているのか聞き出す。聞くだけ聞いて、決めれば良い。違いますか?
「アンナさま。コイツ、使えます。」
「マリィのカン、信じよう。」
陸なら夜でも。しかし、海を越えるのは難しい。人を操る力でも有れば、悩まずに済むのに。そう思っていた時、現れた。
この男、奴婢だろう。痩せこけてボロボロ、目が死んでいる。
この先は確か、琅邪の国。戦好きで、コロコロ王が変わる国だったか。出来る事は限られるが、臣より使えるだろう。
「申し上げます。」
臣が飛び込んできた。
「滅んだのは村か、国か。」
儺国の大王が問う。
「村です。人も獣も、姿を消しました。」
耶万に仕掛ければ死ぬ。認めたくない、認めない。しかし引く。兵を送れば、儺国が守れない。
鎮の西国には、十の大国がある。儺国は、その一つ。敵は大国だけじゃない。儺国にある村や国が、牙を剥く事も。その一つが、また消えた。
「食べ物は。」
「全て倉に。薪は積み上げ、囲いました。」
「そうか。下がって良い。」
「ハッ。」
刈り入れが済むまで待ったが、そろそろ動くか。きっと他にも。消えるのは生き物だけ、暮らすのに要る物は手つかず。
何が起きたのか、確かめなければ!