8-51 外れてほしかった
「ごめんください。」
茅野神の使わしめ、ヤノ。オミから言われた通り、村の外から声を掛ける。暫くすると、家の中から一匹。仔犬がタッタと駆けて来た。
「クゥ、キャン。」 オマタセシマシタ、ヤノサマ。
お久しぶりです、マルコです。マルは今、布を織っています。大蛇は今、和山社です。キュルルン。
人の姿に化ければ、見せたり話せますか? そうなら、大人を呼んできます。フリフリ。
「叶うなら、良村の長を。」
長は良山の外に。村にはシン、商い人が居ます。
「では、商い人を。」
はい、呼んできます。お待ちください。
「お待たせしました。良村のシンです。」
「茅野神の使わしめ、ヤノです。先触れも無く伺い、申し訳ない。」
「いえいえ。」
化けるの、上手いなぁ。どう見ても人だよ。ってオレ、祝の力なんて無い。なのに見える、聞こえる話せる。狐に化かされてる? いやナイな。マルも居るし。
ノリの話じゃヤノさま、子狐だって。うぅん、どうみても大人だ。
ん、そうじゃナイ。今は違うぞ、シン。オロチ様が戻られるまで、待てない何かが起こったんだ。だから、オレが呼ばれた。
「ヤノさま。茅野、タエに何か。」
タエ?
「悪いモノを見たようだ。マル、ミヨ、タマの名を。」
「そうですか。」
玉置なら人を遣れる。けど、良山は違う。許し無く入れば、間違いなく死ぬ。それに何より、村がドコに在るのか分からない。だから使わしめを。
イヤな感じ、するなぁ。シゲは獣谷、センは蔦山。ノリは草谷、コタは上木、コノは馬守。タケは山中、ムロは裏岩。カズはノリコを連れて、流山を探りに行った。
カン、外れてほしかった。でも起きるんだ、いや起きている。この地じゃナイ、どこか遠くで。南だな、きっと。早稲、風見、耶万は違う。
アヤシイのは采、悦、大野、光江、安。この五つは危ない。悪く言いたくナイが、心根が腐っている。戦好きで、人を物として扱う国だ。
耶万に負けて滅んだけど、残ったからな。
それに、兎和野の長が言っていた。西国の舟は減ったが、耶万が狙われていると。
「シンさんっ。」
「何だい、マル。」
「タエに、あいたい。」
「ヤノさま。シゲが戻るのは、早くて昼過ぎ。タエの事、話し合うのは夜でしょう。」
「叶うなら早く、会わせてやりたい。宜しく頼む。」
「はい。」
「マル、戻ったぞ。」
おかえり、大蛇。
「いやぁ、良村は良いなぁ。」
愛し子を抱き上げ、ホッペにスリスリ。鱗で傷つけないよう、人の姿に化けてネ。
「クゥゥ。」 イイナァ。
マルコ、おいで。
「キャン!」 ワァァイ!
マルの胸に飛び込み、尾を振る。撫でられウットリ。