8-50 使い蛇は通い
「おはようございます。急ぎ、良村に使いを。叶うならヤノさま、お願いします。」
使わしめ、パチクリ。
「ネネよ、何があった。」
社の司、大慌て。
「タエが、先を読みました。」
禰宜、キリリ。
「そういうコトなら、急ぎましょう。」
朝が弱い祝、柱に掴まりウトウト。
少し前にシンが来た。だから暫く、茅野には来ない。狩り人に頼んでも良いが、良村の人に会えるとは限らない。だから社を通す。
戦好きが攻め入って、アッサリ負けた。ドコに罠が仕掛けてあるのか、全く分からない。つまり許し無く入れば、必ず命を落とす。それが良山。
「分かった。で、言伝は。」
ヤノは妖狐。妖の術を使えば、飛んで行けます。
「と言うワケで、行って参ります。」
「気をつけて。」
「はい。」
茅野神の御許しをいただき、いざ良山へ。
恐ろしいのだろう。眠っては飛び起き、叫ぶ。
先読の力は珍しい。タエの力は強く、ずっと先の事が見える。だから今、見ている末は。いや、そうとは限らぬ。
この地に人が入ったのは、ずっと昔。山や野、荒れた地を切り開いて、田や畑が出来た。平たいと耕し易いが、守りは弱い。
分かっていれば備えられる。だからタエは、繰り返し力を。
「これはヤノさま、おはようございます。」
「おはようございます、オミさま。」
大蛇神は使わしめチュウを、継ぐ子ウタさま。今の牙滝神に託された。よって大蛇社に、使わしめは居ない。
幸い良山には、大実神が御坐す。使わしめは犲、オミ。
「大実社に? それとも、良村でしょうか。」
「良村に参りました。」
チュウは御許しを得て、良村に使い鼠を遣っている。けれど通い。使い蛇も通いなので、良村に居るとは限らない。
愛し子に言伝を頼むのは、何となく気が引ける。賢い子だが、大蛇神を骨抜きにした幼子。というコトで、大実社を訪れた。
「大蛇神は隠の世、和山社に御坐します。『昼までに戻る』と仰せに。」
愛し子と楽しく、朝の山歩き。半分ほど歩いたか、使い蛇がニョロニョロ急いで、やって来た。聞けば臥していた猫神が、和山社へ飛んで来たと。
良くない事が、起こったに違い無い。
『昼までに戻るから、良山から出ないように』と伝え、急いで戻った大蛇。見送ったマルとマルコは、山歩きを続けた。
「長は、村でしょうか?」
「さぁ、どうでしょう。愛し子は村ですね。外から声を掛ければ、犬が知らせてくれますよ。」
オミは一度、マルに清められている。だから、何となく分かる。マルコはマルから離れないし、村には必ず一人、大人が残る。
そうそう。声を掛ける時は、村の外から。忘れないで。