8-49 助けなきゃ、止めなきゃ、変えなくちゃ
「わぁぁ!」
沢出社の祝、セリが飛び起きた。
「どうした。悪い夢でも、見たのか?」
社憑きの妖狐、靄。代代の祝に仕えている。
「えぇ。とても、とても悪い夢。」
中つ国、人の世。隠の世は閉ざされ、守られる。けれど、人の世は荒れる。
神が統べる地を御閉じ遊ばしても、生きている人は通れる。弾き出されるのは、隠や妖怪の類。
西国で暴れているのは、人と妖怪の合いの子。人の血が流れているから、通れる。激しい痛みに耐え、生き残ればの話。
力を増した合いの子が、魔物を食らった。はじまりの一族。その血を薄いが伝える、末の末。
アンリエヌの民だが、化け王の許し無く国を出た。大王が放った者だ、滅ぼされる事はない。
とはいえ困った。食らったのは、強い力を持つ二人。それを取り込み、力を増した。これまで取り込んだ、多くの力と溶け合い、一つに。
隠の世は守られるが、人の世など。
ここは中の東国、それも真中。西は畏れ山、東は神成山。北は越道山、南は大貝山。
強い山にグルリと囲まれ、守られている。もし他から禍が近づけば、直ぐに知らされ、備えられる。
「大きな地蜘蛛で、御名を土さま。」
「大貝神の使わしめ、か。」
心消が在るのは、霧雲山の統べる地。大貝山からは、遠く遠く離れている。
なのに、セリは見た。あんなに魘されて、飛び起きたんだ。悪いどころか、酷い末なのだろう。
「南で止めなければ、この地も?」
靄に問われ、セリが黙って頷いた。
「ひゃぁぁぁ!」
ガバッ。ガタガタ、ガタガタガタガタ。
「タエ? 悪い夢を見たのね。」
茅野の禰宜、ネネに抱きしめられ、少し落ち着いた。
西から、バケモノが来る。狙いは霧雲山。人が消える、殺される。助けなきゃ、止めなきゃ、変えなくちゃ。
猫が飛び込むの。大蛇神の御坐す、和山社に。それで隠の世は守られる。今より強い力で、隠の世を包むから。
でもね、人の世はグチャグチャ。
鎮の西国から中の西国、真中の七国までは、すんなり進む。津久間の統べる地で力を失うけど、通っちゃう。それで狙うの、祝を。
多くの命を奪って、どんどん強くなる。そうして、大貝山の統べる地へ。で、知る。北へ進めば霧雲山だって。それで、それで。みんな死んじゃう!
どうしよう。どうすれば良い、どうすれば守れる、どうすれば救える。考えろ、択べ選べ!
「まっ、マルぅぅぅ。ミヨぉぉ、タマぁぁ。」
マルは良村。ミヨとタマは、宝玉社の継ぐ子ね。
「朝になったら、使いを出すわ。良村と玉置、どちらが良いかしら。」
「よ、い、むら。」
絞り出すように言うと、スッと気を失った。
先読。先見の力と違って、道を選ぶ事が出来る。悪い末から見るから、心が壊れやすい。
私には弱いけど、守りの力がある。だからね、タエ。悪い夢から守るわ。
「ゆっくり、お休みなさい。」
タエの頬にソッと触れ、ネネが微笑む。