8-45 今は喜ぼう
「アァン?」
軽く首を傾げ、ギロリと睨みつけながら、低い声を出すアキ。そんな四姫の姿に怯むも、引くに引けない側女。母娘を冷たい目で見る、腰麻の人たち。
思えば幼い頃から、己の思い通りに振舞っていた。正妃の子は皆、優れていたのに。あの王の子とは思えないホド、姿も心も美しく。なのに側女の子は皆、酷すぎる。
「国守になってヤッタのに! 何だ、その目は。」
なってヤッタ?
「黙ってないで、何か言え。」
偉そうに。
「オイ!」
ハァ。
そりゃコレより、一彦一姫二彦を選ぶよな。アレより、正妃を選ぶよな。解るよ、神様。でも一人くらい、腰麻に残してくださいよ。
オレたちはね、多くを望んじゃイマセンぜ。『人の食べ物に手を付けるな』と、そう言ったダケ。妖怪なら山に入って、獣とか狩れるでしょう?
腰麻はね、荒れてんですよ。戦に負けて直ぐ、田も畑も踏み荒らされてグチャグチャ。若いのは皆、奪われた。
無いんですよ、食べ物が。足りないんですよ、食べ物が。生き残りが力を合わせて、何とか。それなのに、もっと出せだぁ?
トタッと、何か倒れる音がした。ふと見ると、子が倒れている。ユキさまに抱き起こされ、こちらを。
「・・・・・・坊?」
「じっ、じぃじぃぃ。」
よろめきながらトタトタと、両の手を伸ばしながら駆けてくる。孫に、イサに似た子が真っ直ぐ、ガバッと飛び込んできた。
手が震えた。これは夢か、夢なら覚めないでくれ。ツハは思いっきり抱きしめ、確かめる。この温もりは夢じゃナイ。夢じゃない!
「さぁ、みんな。」
ユキに声を掛けられ、ユックリと歩き出す。
死んだと、戻らないと思っていた。夢じゃない、生きている。こちらへ歩いてくる! 子が、孫が、思い人が。
フラフラと、吸い寄せられるように駆け寄った。あちらこちらでオンオンと泣きながら、力いっぱい抱きしめる。生きていた、生きている。この腕の中で、確かに。
「ユキさま。孫は、どこに。」
イサを抱き上げたまま、ツハが尋ねる。
「大野で、兵の下働きを。」
大野。安と結び、耶万に仕掛けた大国。アッサリ負けて、どちらも滅ぼされた。
安もヒドイが、大野もヒドイ。言うまでもなく戦好き。好き嫌いと裏表が激しく、弱い者を虐げ、強い者に擦り寄る。当たり前のように裏切り、奪い続けた。
安と手を組み、耶万に戦を仕掛け、大負け。どちらも大磯川に近く、兵を送るのに良かった。采とも近いので、使い易いと思われたのだろう。そんなに荒れてなかった。
しかし骨や骸が、あちこちに。
耶万に滅ぼされた国は、全て調べた。見つけられた腰麻の生き残りは、これだけ。残りは匿われているか、死んだか。守るために、隠されているか。
救えなかった命の方が多い。けれど、今は喜ぼう。