8-41 帰りましょう
「そうか、真か。」
ヨシ、殺そう。
「はい。ですから、お助け」
シュパッ。ゴロン。
顔は笑っているが、目は笑ってイナイ。そんなユキを見て、虫螻どもは悟る。殺されると。
「どこから来た。」
「ヒィィ!」
「同じコトを言わせるな。サッサと答えろ。」
刺し殺さなかったダケ。『殺さない』とは、言ってナイ。黙っていれば刺し殺され、答えれば切り殺される。ただ、ソレだけのコト。
「たす、けて。お助け、ください。死にたくない。」
「どこから。」
「安から来ました。」
ニコニコしながら近づき、根こそぎ奪う。生き物は捕らえ、殺さず売る。
他の地の生き物は、すべてモノ。攫っても襲っても、奪っても穢しても許される。そう信じて疑わない。それが安。
「他は。」
「皆、安の生き残りです。」
耶万に滅ぼされた国、安。他は気の毒に思ったが、安は滅んで良かった。心の底から、そう思った。なのに居たのか、生き残りが。
「お助け」
シュパァァ。ゴロゴロ、ゴロン。
残らず切り殺し、直ぐに集めた。抜けた魂を切り刻み、闇で作った壺に入れる。喜べ、償わせてやる。多くの女を苦しめた罰だ。
死ねば終わると思うな。殺してくれと願うまで、幾度でも繰り返す。骸は残らず、森の中からコチラを伺う獣に与えた。刻んだ魂は、壺の中で。クックック。
この中には、幾万もの刃が仕込んである。死んでも痛みを感じるよう、ちゃんと残した。さぁ歌え、踊れ。グサグサ突き刺され、ブスブス貫かれ、悶え苦しめ!
安の虫螻の所為で、待たせてしまった。サッと闇で包んで助け出したけど、生きてるわよね。
「覚えてますか。私、ユキです。」
「・・・・・・は、ふり。」
「はい。腰麻社の祝だった、ユキです。」
「ゆき、さ、ま。」
まだ幼いのに、痣だらけ傷だらけ。それに、こんなに痩せて。きっと食べさせてもらえず、草を食べて命を繋いだのね。
「さぁ、どうぞ。ゆっくり、おあがりなさい。」
団子を差し出すと、ツゥっと涙を流した。小さく頷き、ゆっくりと口を開け、パクッ。モグモグしながら、涙をポロポロ。
言の葉が、少ししか出ない。瘦けた頬、ギョロリとした目。病なら治る。けれど、心の傷は治せない。どれだけ辛く、苦しい思いを。
許せない。アキの所為で! あの子が言い付けを破らなければ、こんな事には。
「帰りましょう。」
「・・・・・・か、えり、たい。」
「えぇ。帰りましょう、腰麻に。」