8-40 女の敵
「・・・・・・さ、ま。」
「間に合った。」
ユキさま? ユキさまだ。角、だよね。きっと良い妖怪だ、白く光ってる。
あったかい。あんなに重かった体が、ポワポワする。アチコチ痛かったのに、痛くナイよ。喉もスッキリ。頭は少し、ガンガンするけど。
ココどこ? まぁ、いっか。眠いけど、寝たら死んじゃう。目を開けなきゃ。でも瞼が・・・・・・重い。
「ヨシ! 次。全て助ける、助けてみせる。」
正妃と社の皆が、命を懸けて守った命。ユイとユズが守った命。
私が妖怪になったのは、そんな命を救うため。腰麻の生き残りを救うため、生かされた。きっと。
腰麻神も田鶴さまも、とても驚き為さった。でも仰ったわ。『隠でも妖怪でも、ユキはユキだ』と。『思うように生きなさい』と。
「ユキさま。あちらにも一人、腰麻の子が。」
「ありがとう、ユラ。」
妖怪に殺された隠の魂が集まり、妖怪になった。光の中には出られない。だから、地中か影を移動する。ユキの抱いた憎しみに触れ、蛇の姿に。
ユラユラしているので、ユラと名付けられた。
「祝ぃ! 見つけたぞ。捕まえろぉ。」
「ヲォォォ。」
ムサクルシイのがワラワラと集まり、ユキを囲む。ギラギラした目は節穴か? 角も牙も、見えナイらしい。
確かに、闇の力を持つ祝。死して妖怪と化したが、腰麻社の祝である。神の御許しを得た、妖怪の祝。人でなく、妖怪。
ゴチャゴチャと汚らしいのが束になって掛かっても、サッと一振。
闇を右の手に集め、スッと伸ばす。石器のように鋭く、鞭のように撓うソレが、虫螻どもを薙ぎ倒す。
「答えろ。なぜ祝を狙う。」
スゥっと細められた目が、赤く光る。
「ヒィィ。」
賊の頭が、驚いて仰け反った。
「刺し殺されたくなければ、答えろ。」
「ぬ、奴婢に。耶万の、お、大王に。」
ガタガタ、ガタガタガタ。
愚かだ。耶万の大王は、タヤさまに殺された。ずっと昔、耶万に殺された祝。闇の力を取り込んで、光の力を押さえつけ、戦った祝。大祓により、旅立たれた。
耶万の新しい王は、水手だった男。潮の流れが分かり、嵐を乗り越える術を持つが、陸では弱い。
女をモノ扱いするが、強いのに媚びるダケの、弱い男だと聞く。
それに有り得ない。耶万が落ち着くまで、支える事になった万十も氛冶も、女を敬い崇める。
隠の世から遣わされた妖怪は、良那にいる継ぐ子が戻るまで、耶万に残られる。
女を、祝を? ないナイ。コイツら知らぬのか。耶万の男は、いや男が皆、己と同じだと考えて。
そうなら生かしてオケナイ。ヨシ、殺そう。女の敵は、女が討つ。
「誰に頼まれた。」
「や、耶万の。お、大臣と。やや、社の、司に。」
どれも死んだ。殺された。
「真か。」
「ハイィッ、真ですぅ。」