8-39 もっと早く、得ていれば
「か、えり、たい。」
四姫が言い付けを守っていれば、こんな思い、しなくて済んだのに。
隠れ家に詰め込まれて、ドンヨリした気持ちになった。でも解っていた。
どんなに腰麻が強くても、戦に負ければ奴婢になるって。若い男は戦場に放り込まれ、女は穢され、子は売られる。それが戦。
腰麻は耶万に負けた。だから子と、孕んだ女が集められ、隠され守られたんだ。腰麻を残すため、次に繋ぐため。なのに、なのにアキは!
「ユイ、さ、ま。」
とっても優しくて、美しい姫さま。賢くて、心が強くて、大好きな姫さま。
言い付けを破ったアキが、王の家に忍び込んだ。見つかって逃げ出し、戻って来た。敵を引き連れて。隠れ家に飛び込んできて、ユイさまを身代わりに。
なんでだよ、死ぬならアキだろう。言い付けを破って、みんなを。みんなを・・・・・・。
「ユズ、さ、ま。」
とっても優しくて、美しい彦さま。賢くて、姉のユイさまが大好きな彦さま。
ユイさまが皆を守るため、命を。
ユズさまが泣きながら仰った。『私が囮になるから、森に逃げなさい』って。それで、それで飛び出して叫んだ。『私は腰麻の二彦、ユズだ。腰麻の者に、手を出すな』って。
みんな泣きながら逃げた。声が出ないように口を押さえて、涙をボロボロ流しながら逃げた。なのにアキが言ったんだ。『子や娘が逃げる、逃げ出した』って。
正妃は仰った。『耶万との戦、勝つのは難しい』と。なのに王は聞かなかった。腰麻の事なんて考えず、戦を仕掛けた。守るためじゃない。ただ、戦が好きなんだ。
王も側女も、側女の子もアテにならなかった。でも正妃と正妃の子は、腰麻の皆を守ってくださった。生きるのに要る物を、他から集めてくださった。
他の国へ行きたいと思う子を、逃がしてくださった。
「シッカリして! 目を開けて、お願い。」
肩を揺すっても、ピクリともしない。遅かった。もっと早く見つけていれば、助けられたのに。
私も隠れ家に居た。光の力を生まれ持つ、継ぐ子だから。次の祝だから。
『残る』って言ったら、『腰麻のために生きなさい』って。ユイとユズに助けられ、森に逃げた。なのに、なのにアキめ! 皆を売りやがった。
アイツ指差して、言いやがった。『祝が逃げた』って。私は助けたかった。だから皆を逃がそうと、囮に。なのに、なのにアイツ。『アッチにも逃げた』って。
みんな捕まった。縛られて、バラバラに売り飛ばされた。でも私だけ、扱いが違った。耶万に、大王の前に突き出されて、皆の前で穢された。
力を得るために、祝の力を強める? ナニ言ってんの。そんな力、祝には無い。なのに信じず聞き入れず、酷いコトをイロイロと。
アチコチから集められた祝女は、アチコチから集められた祝人に。
あの目、薬を飲まされたんだ。ドヨンとして、獣みたいで怖かった。『止めて』って言っても通じない。言の葉が分からなく、なったんだ。それで。
死にかけた時、憎しみを抱いた。その時、清らな光に導かれ、隠に。
暴れる妖怪から隠を守るため、殺した。殺して殺して、気が付いたら妖怪になっていた。
光の力は失ったけど、闇の力を得たんだ。刃に変えて戦える。
あの時は、守る力が欲しかった。だけど今は救う力、癒す力が欲しい・・・・・・。