8-38 絶対なんて、ない
「耶万神。少し、御休みください。」
「ありがとう、マノ。」
大貝社から戻ったマノは、包み隠さず申し上げた。大貝山の統べる地で、人と妖怪の合いの子が生まれると。今は耐えきれず。しかし、そのうちに。
人と同じように生まれ、母が干乾びるまで吸い尽くす。骸を食らい、人を襲って吸い尽くし、また骸を食らう。その繰り返し。
鎮の西国や中の西国、真中の七国でも里や村、滅んだ国まで有るとか無いとか。
隠の世は閉ざされ、人の世でも閉ざす地が出た。今も開いているのは、西国と真中の七国。他は全て、閉ざされている。
国守が居る地は何とか。居なくても狩り人か樵、釣り人が居れば。社があっても、神が御坐しても、使わしめが隠でも守れない。命を奪えば、闇に。
魂食湖が閉じる前、隠の世で暮らす妖怪が言った。人の世で、大きな戦が始まると。
中つ国が荒れ、纏めるために力を求めた人が、国を滅ぼす。
戦、戦、戦。多くの血が流れ、多くの国が滅び、とても大きな国になる。その王が戦を仕掛け、他を攻め滅ぼす。そうして出来た大国が、大国を飲み込む。
魂食湖を二夜だけ残したのは、遠くまで調べに行った妖怪のため。大蛇神は隠の世を守るためなら、何だって為さる。
人の世が滅んでも、涼しい顔を為さるだろう。
守りたい人だけ、隠の世に。他は見捨てる。人の世の事は人の世で、隠の世の事は隠の世で。それが決まり。
霧雲山の統べる地は、魂食湖が閉ざされるまで待った。噂によれば山守神、ベロンベロンだったトカ。
そりゃ神だって、恐ろしいモノは恐ろしい。酒に逃げたり、溺れたくもなる。
「マノ。耶万でも、生まれるだろうか。」
「はい。考えられるのは七つ。采、伊東、光江、悦に大野、久本、安。うち采、大野、悦、安、光江から、多く生まれると思います。」
他にもアヤシイ国はある。しかし国守か、狩り人や釣り人が居る。生れて直ぐ、殺めるだろう。それでも守り切れるかどうか。
統べる地が閉ざされても、人は動ける。西国や真中の七国から、人と妖怪の合いの子が来る事はナイが、もしかすると。いやナイない、ナイと思いたい。
「大貝山の統べる地で生まれれば、直ぐに知らせる。そう決まりました。」
「そうだね。」
マノを優しく撫で、耶万神。ニッコリ。
もう迷わない。耶万がドウなろうが、いや違う。タヤや念珠のような思いを、決してさせない。そのために力を尽くす。耶万神に仕える隠として、使わしめとして。
「田鶴。御覧よ、空が赤い。」
腰麻社にて、使わしめ田鶴。神と仲良く、空を眺める。
「腰麻神。そろそろ、閉ざしませんか。」
「・・・・・・うぅん、それは。」
守る地を閉ざしても、人は通れる。
出入り出来ないのは、隠と妖怪だけ。閉ざせば妖怪になった、腰麻の者が戻れなくなる。いつ何が起こるか、私にも分からない。
腰麻でも体が育たないまま、生まれ出ている。他の地から来た人が、妖怪の子を孕んでいたとしても、見捨てられない。他にアテが無い、そんな人を。