8-37 潮の流れは分かっても
耶万から溢れた闇により、多くの命が奪われた。耶万を滅ぼし、耶万に滅ぼされた国を元に。という話も出たのだが、流れた。
人が居ない。
祝の力を持つ者は、耶万の大王や臣たちに。そして残らず、命を落とす。それぞれの国で力を認められ、仕えていた臣や頭なども、一人残らず。
国を動かすには強さも要るが、何より人だ。頭を使って戦える人が居なければ、国は守れない。その臣がポンポン放り込まれ、戦場で命を落とした。
残された道は一つ。気は進まないが、耶万を残すしかナイ。王として国を守れる、導けるような人は死んだ。だからと他の者を王にすれば、中から崩れる。
「あ、あの。すみません、オレには。」
海の男だが、頼りない。
「水手だったのだろう、乗りこなせ。」
万十の大臣、イツがニコリ。
北の地から、命からがら逃げ帰った。戻れたのは、たった三人。
また送り込まれそうになったが、フラフラで動けなかった。だから残れた。他のが行った。で、誰も戻らなかった。
『もう嫌だ、舟なんて乗らない』ボロボロ泣きながら、ボソッと呟いた。そしたら王だよ、耶万の王。
オレは水手、王なんて向いてない。なのに、それなのに。あれよアレヨという間に、王になっていた。
「海に出れば、潮の流れは。でも王なんて。人の考えなんて、オレには分からない。」
気が弱いのに、王にされた。それがスイ。
「祝の力が無ければ、考えなんて分からないモンさ。」
氛冶の大臣、アヤもニコリ。
万十も氛冶も、恐ろしく強い大国。その大臣が揃って、水手だったオレを王にしようと、朝から暮れまで。もう嫌だ、オレに王は務まらない。頼む、他の誰かに。
・・・・・・こ、ろさ、ないで。そんな目で見ないで、頼むよ。お願いします、お願いします。もう許して。
「スイ王よ。そのような弱腰で、国が守れるのか。」
「守れません!」
イツに問われ、即答。
・・・・・・。イツとアヤが黙り込み、ニッタァ。
「おレは、オれニ、おウなんて。」
声がコロコロ、裏返る。
「王に求められるのは、守りたいと思う心だ。」
「己の弱さと向き合い、逃げない。それが王だ。」
イヤだから、オレに王なんて務まらない。だ、だから頼むよ。そんな目で見るな。こわいコワイ怖いって、そりゃソウだ。この人たち、大臣だもん。
一人は万十、もう一人は氛冶の。あぁ、オレ終わったぁ。逃げられない。
耶万の皆、言うんだ。『スイなら信じられる』って。アレ、嘘だね。みんな王になんて、なりたくナイんだ。だからオレに押し付けて。
「継ぐ子が戻れば、落ち着くだろう。」
グイッと詰め寄り、イツ。
「皆それぞれ、しっかりイロイロ身につけて戻る。」
ググイと詰め寄り、アヤ。
だったらさ。継ぐ子の誰かが、王になればイイじゃん。オレ支えるよ。だから、その目はヤメテ。近い、近いよ。
「逃げられると思うな、スイ。」
「残り二人も逃げずに、受け入れた。」
スイは王、残り二人は臣になる。耶万のために。イザとなれば捨てられる、解っていても逃げられない。