8-36 使えるなら、使う
耶万に滅ぼされた国の多くは、戦狂い。中でも酷かったのが腰麻。正妃イナが産んだ子は優しく、賢い。側女マコが産んだ子は皆、王と同じ。
一姫ユイには、祝の力は無い。しかし、その魂は美しく清ら。祝のユキと仲が良く、『王と社が力を合わせ、国を守る力になりたい』と。
「腰麻の祝も、命を。」
「はい。暴れ狂った妖怪から隠を守るため、首に噛みつき殺した事で妖怪に。怯む事なく戦い続け、祓い清められる事なく、生き残ったと。」
土はマノから、直に聞いた。
腰麻の祝だったユキは、光の力を生まれ持つ。
妖怪化して失ったが、直ぐに闇の力を得た。耶万の闇に曝され続けた事で、授かったのだろう。腰麻に戻らず、生き残りを探し続けている。
まだ一人も、見つかっていない。
「四姫は、生かされて居るのか。」
「はい。国守として働く事で、許されていると。」
腰麻を残すため、多くの子が隠された。村外れ。山から入らなければ分からないように、隠して建てられた家に。
食べ物を差し入れるのは、二彦ユズ。イナの子である。
四姫アキは言い付けを破り、外へ出た。村を抜け、王の住まいを目指した。それで見つかり追われ、隠れ家に逃げ込んだのだ。
ユイを身代わりにして逃げた。肩を狙って射た矢が、アキの胸を貫いた。娘を二人、死なせた兵は考える。『あの中に、他にも』と。
ユズは守るため、戦った。とはいえ九つの子。アッサリ切り殺されてしまう。
生き残った親、縁の者はアキを責めた。
なぜ言い付けを破った、なぜ隠れ家に逃げ込んだ。言い付けを守っていれば、ウチの子は。隠れ家に逃げ込まなければ、ウチの子は助かった。そう言って繰り返し、繰り返し。
死んだ者は戻らない。生きていれば戻る筈だ、しかし戻らない。というコトは、死んだのだろう。
償え! 妖怪になったのだ、国守として働け。そう言われ詰め寄られ、断れなかった。
隠れ家にはアキの母、マコも居た。
イナは王の住まいに残り、頭を使って戦った。戦に敗れた後は、耶万と取り決めをするため話し合って。
なのにマコは、戦わなかった。守らなかった。隙を狙い、山に逃げた。
隠れ家で守られていた子らは、残らず連れ去られた。奴婢として。
イナは身を挺して皆を守り、大臣に腰麻を託した。その大臣も、子らを守って刺し殺された。守られていた子らも、生き残りも皆、奴婢に。
「側女は、生き残ったのか。」
「はい。四姫が国守として働くなら、生かすと。」
正妃の一彦は、戦場で。一姫と二彦は、四姫の所為で死んだ。腰麻のために戦った、正妃イナも殺された。
生きていてほしい人が死に、裏切り者が残った。だから側女マコも四姫アキも、腰麻の民に逆らえない。生きるため、生き残るため。
マコもアキも、生きる術が無い。生まれた時から傅かれ、のうのうと生きてきた。飢える事も凍える事も、渇きに苦しむ事もなく、ただ生きていた。
穏やかな時は良い。国や民のため、力を持つ男の妻となる。そのために生かされてきた、子を産む具。
腰麻が耶万に滅ぼされマコは、万十の臣である兄を頼った。しかし、見捨てられる。悪い噂しか聞かない妹と姪を助けて、万十に何の得がある。
得どころか、禍しか齎さない。
「妖怪でも娘。使えるなら、使うか。」
「おそらく。」
マコの考える事は一つ。己のためなら、他は捨てる。