8-35 困ったコトになった
「土よ、困ったコトになった。」
「耶万に滅ぼされた国で、生まれているそうで。」
「ホウ、知って居ったか。」
「使わしめの集まりで、チラッと聞きました。」
土は地蜘蛛。息を潜めるくらい、何でもナイ。だからアチコチから、イロイロ仕入れられる。
「育つと思うか。」
「いいえ。聞く限り、人の体では耐えられません。」
母の腹を食い破って出るか、押し破って出るか。どの子も頭が大きく、体は小さい。母は痩せ細り、というより骨と皮。息をするのも、やっと。
生まれた子はバケモノと呼ばれ、母の骸を食らって直ぐか、外に出て直ぐ殺される。叩き殺されるか、射殺されるか。それから家ごと、焼かれる。
「大社の帰りにな、チラッと聞いた。西国で、人と同じ姿で生まれたと。母が干乾びるまで乳を吸い、アッと言う間に育つそうだ。」
「そっ、れは、その。真で?」
「笑いながらな、話して御出でで。」
「では、しかし。」
「いや、真であろう。」
笑いながら話すコトか? いや違う。そうではナイぞ、大事だ。なのに『ワハハ』と、高らかに。
御名を・・・・・・、忘れた。が確か、糟国に御坐すナントカの神! 禍津日神で在らせられた。
「というコトは、そのうち。」
「生まれる。人と妖怪の、合いの子が。」
大貝神、使わしめ土。揃って溜息。幸せが逃げるヨ。とはいえ、嘆きたくもなる。
西国で生まれたバケモノ。母を干物状態にして、元気いっぱい。空腹を満たすため、狩りまくった。はい、その通り。里から村から人が消え、滅んだ国も有るとか無いとか。
いえいえ、有りますよ。
そうでなくても耶万に攻めるため、集めましたから。兵をアチコチからゴッソリ。舟に乗せ、出航! いざ、耶万へ。で、全滅。正確には一人、逃げ帰りました。
もし、耶万行きの舟に乗っていたら。大貝山の統べる地に、到着していたら。
「西国の事は良い。もし大貝山の統べる地で、そのようなバケモノが生まれれば。」
「大事、ドコロの騒ぎではアリマセン。」
「そう。そうなのだ、土。」
使わしめの集まりで聞いた限り、人の子と同じように生まれたバケモノは、まだ生まれていない。この地でもソノウチ、生まれるカモ。
母は皆、痩せ細っている。人の子か、隠や妖怪の子か。膨らんだ腹に触れても、全く判らない。だから困って、集まった。
国守が守っているのは会岐、大石、加津、千砂。妖怪の子を孕んでいる娘は、助からないだろう。他にも居るが、人の子だろうと。ただ、ハッキリ言えないとも。
采、伊東、光江はアヤシイ。妖怪の子は、今は生まれていない。けれど中には『胎の子がグニグニ動いて、気持ちが悪い』と言う者も。
悦、大野、久本、安は、かなりアヤシイ。人とは思えないほど、良く食べる。食べて食べて、グウグウ寝て食べる。なのに、ガリガリに痩せている。
「大貝神。チラッと聞いたのですが、腰麻の四姫。一姫を殺して、妖怪になったそうです。」