8-34 生きたいバケモノ、死にたいバケモノ
「ハハッ、死ね。死ね、死ねぇぇぇ!」
人は、殺した事が無い。なのに、嬰児を殺せ?
嫌だって言った。ちゃんと言ったのに、国守として働けって。残りたければ働けって。『妖怪だろう』ってナニ、何なの。
外に出してもらえないから、水瓶を覗いた。良く見えなかったから、光が届くトコまで運んで、それで見た。驚いた。角が、牙まで生えて。
アタシは四姫、腰麻王の末娘。人だった。
言い付けを破って外に出て、耶万に見つかって逃げた。捕まれば奴婢。売り飛ばされて、穢される。だからアイツ、思いっきり突き飛ばして逃げた。なのに死んだ。射殺された。
そうソウそうよ、闇に包まれて力が溢れて。それで殺したんだ、いっぱい殺した。で、倒れた。気が付いたらココに居て、外に出られなくて、それでコウなった。
「バケモノ! バケモノめ! 死ね。」
ギラギラしてた。目を剥いて、怒りを叩きつけるように。同じバケモノなのに、認めたくなくて。逃げるように、求められるまま殺す。
涙で前が見えない。グチャッ、グシャッと、肉が潰れる音が聞こえる。ビチャッ、ビチャッと飛んでくる。
もう死んだ? まだ生きてる? サッサと死ねよ、助けろよ。
「ヴゥゥ。」 イキタイ。
狭くて苦しくて、透けて見える向こうに出たくて、思いっきり暴れた。パンッて音がして、広いトコに出たのに。
疲れたけど、お腹が空いて。いい匂いがしたから、残さず食べた。満たされなくて、もっと欲しくて。なのに、思うように動けなくて。
「ギャァァ。」 タスケテ。
何もしてない。なのに、どうして? バケモノって言うけど、そう変わらないよ。笑いながら『死ね』って、よく言えるね。酷いよ、あんまりだよ。
ねぇ、痛いよ。グチャグチャだよ。あぁ、死ぬな。助からないな。・・・・・・生きたかった、な。
「ヴッ。」 アッ。
痛い苦しい、寒い見えない。何も見えないよ。次があるなら、生きたいな。ギュッと優しく抱きしめて、もらえるかな。
バチバチ、バチバチバチ。
・・・・・・! ・・・・・・、・・・・・・。
バチバチ、バチバチバチ。
「あ、れ。燃え、て、る?」
グワンと、頭が後ろへ。見上げた先には、黒い煙。
「アキ!」
母さま?
「出てきなさい、さぁ。」
「フフ、フフフフフ。」
小さな笑い声は、燃え上がる炎に消される。歪んだ顔は、煙に隠される。
死んで妖怪になった。それが、ア・タ・シ。
正妃の娘と、三つしか変わらない。同じ姫なのに、扱いが全く違う。許せない。だから身代わりにした。
死ねば、隠になって戻る。見えないし触れられない。なのに見える、物に触れられる。ナンデ、オカシイ。オカシイヨネ。人に戻れないなら、隠に戻して。
ねぇ、神様。居るなら助けてよ。アタシもう嫌、疲れた。疲れたよぉ。