8-33 祝の力は無くても
「居たのですね。」
ふと、マノが。
「ん、国守ですか?」
大石にも加津にも、国守は居なかった。現れたのは、大祓の後。
大石のクベ、加津のミカ。二人とも耶万の奴婢として、北の地で死んだ。隠となり、大王を殺すため耶万へ戻る。
詳しくは知らないが、妖怪になったのだ。殺したのだろう。闇に堕ちたのに残った、というコトは許されたか、何らかの罰を受けた。今も償い続けている。
「祝の力は有りませんが、『国を守りたい』と、強く願っています。」
「そのようですね。」
大石のクベ、加津のミカ。二人の国守には無い力が、会岐と千砂の国守には有った。祝の力だ。
会岐のフタには守り、千砂のモトには清めの力。二人とも戦で死し、隠として戻る。そして、強い憎しみを抱く。受け入れられない行いを、目の当たりにして。
闇の力を得て、耶万の兵を皆殺し。妖怪に堕ちたが、人に望まれて国守となる。
「社に?」
「いえ、村外れに。」
ミカもクベも家を建て、村外れで静かに暮らしている。国守なのだ、社の側でも暮らせるのに出た。『中からは守れない、だから外から守る』と言って。
人には出来ない事が、妖怪には出来る。社付きだが、神に仕えているワケでは無い。堕ちても闇に纏わりつかれるダケで、誰も何も傷つかない。
傷つく事も、傷つける事も無いのだから。
耶万から溢れた闇には、祝の力が混じっていた。だから、だろうか。力が無くても姿が見える。妖怪なのに、牙も角も無い。見た目は人と同じ。でも、人では無い。
「他にも、居るのでしょうか。」
「居るでしょう。隠れているか、隠されているか。」
人と妖怪は、生きる時が違う。人は直ぐ死ぬが、妖怪は長生きする。会えば判るが、出てこなければ何とも。
隠れされているなら、祝の力を持たない子か女。一人では生きられず、縁の者が匿っている。
祝の力を持つ者は皆、耶万に連れ去られた。男なら戦場に放り込まれ、見た目が整っていれば売られたハズ。だから隠されているのは、力を持たない人。
「耶万から闇が溢れた時、あまり損なわなかった。」
「多く生き残ったのは。」
采は産ませるため、伊東は兵を育てるため。今井は薬を作るため、光江は海から攻めるため。アチコチから集められていた。
悦、大野、久本、安。どこも大国だったが、耶万に若いのをゴッソリ取られて、ほとんど残らなかった筈である。それでも多く生き残った、というコトは。
「調べますか。」
「申し出ると?」
バウに問われ、絞り出すように一言。
「・・・・・・難しい、でしょう。」
神が御坐せば話は早い。けれど御隠れ遊ばしたり、祝の力を持たない者がアレコレ。そうなると、アテに出来ない。
悦も大野も他も、ずっと前に見放された地。
「となれば、大貝社。」
バウに言われ、マノが頷く。
「参りましょう!」