8-32 人の子で、妖怪の子
「そうですか。他では、そのような。」
バウから話を聞き、マノは思った。ヒドイと。
「はい。多くの人が、命を。」
大祓により、耶万の闇に飲まれた隠や妖怪は全て、消えて無くなった。神の御業により、清められた。
隠や妖怪との子を身籠った人の多くは、守られなかった。社に逃げ込めたのは、ずっと守られた子と若者。他は入れず、光を浴びた。
悪い事ばかりでは無い。その光で、胎の子が祓われた。しかし中には守られ、残った子も。それが今、騒がれているバケモノたち。
采、伊東、光江など。耶万に滅ぼされた国の多くが、隠や妖怪に襲われた娘を入れなかった。しかし加津、千砂、会岐、大石は違う。女と、胎の子を守った。
違いは他にも。何れの地にも国守。妖怪になった元、人が居た。だから食われたのは、母の骸だけ。他の人は助かり、守られている。
「他の地は。生まれたバケモノは。」
「狩り人が仕留め、焼いています。」
男は呼ばれるまで、産屋に入れない。
生まれて直ぐ、母の骸を。続いて産婆を。助けを求められない限り、飛び込めない。中で何が起きているのか、外からは分からない。
赤子でもバケモノかどうか、直ぐ判る。
赤子は歩かない、生れて直ぐ這えない。だから出たら、眉間を射貫く。妖怪の国守が居ない地は、そうして何とか、人の命を守っている。
「近海の狩り人は、強いですからね。」
難攻不落の国として、大貝山の統べる地では有名です。
「大浦には。」
こちらも難攻不落。けれど、狩り人が少ない。
「釣り人は皆、銛の使い手です。」
一撃必殺、百発百中!
「出てきたらズブリ、ですか?」
「そのようです。」
ヒエェ。
「耶万に勝った国と、戦える国は良い。」
「負けても守れる国も。とはいえ、このままでは。」
「我ら使わしめに出来る事は、限られて居ります。」
いくらバケモノでも、使わしめには触れられない。姿を見せる事くらいしか。姿を見せても、逃がせるかどうか分からない。
耶万に滅ぼされた国には、社の司も禰宜も祝も、ほとんど残っていない。奴婢として連れ去られ、死んだ。憎しみを抱き妖怪へ。大祓により旅立った。
生き残りの中には、継ぐ子も。しかし守れない。祝の力を持っていても、バケモノには勝てない。だから狩り人や、釣り人が戦う。
どちらも居なければ、どうなるか。バケモノが死ぬまで、ひたすら食われ続ける。
「大貝山の統べる地に居る、全ての国守を。」
「集めたトコロで・・・・・・。」
「離れている間に生まれたら、どうする。」
集めるなら、孕んだ母も集めなければ。胎の子に力を奪われ、骨と皮に。大きく膨れた腹は、今にもハチ切れそう。そんな娘をドコへ。集めたとして、どのように。
「隠の世に頼ろうにも。」
「人の世の事は、人の世でと。」
追い返されるのが、関の山。
マノもバウも、思わず頭を抱える。
国つ神に仕える隠も妖怪も、人の命は奪えない。バケモノは人の子で、妖怪の子。だから奪いたくても、奪えないのだ。