8-30 お別れ出来るように
骸を整え、そっと目を閉じる。クワッと開いた目、歪んだ顔なんて、誰にも見せたくないだろう。女の子だ。出来る限り、美しい姿で会わせたい。
バケモノの骸を甕に入れ、蓋をした。近寄らないように言ってから、離れた所で残らず焼く。この家も焼こう。この娘を送るため、弔うためにも。
「片付けたが、中に入るのは。」
親、そう言いかけて止めた。この娘の親は、きっと。
「オレ、兄です。」
この子より幼かったのか、あの娘は。
「クベ、そばに。オレは焼いてくる。」
そう言ってミカが甕を抱え、背を向けた。
「はい。さぁ、行こう。」
ヨタヨタ歩く兄を支え、クベは家の中へ。
他の皆、誰も何も言えなかった。人とは違う叫び声、何かを叩き潰す音。離れていたのに聞こえた。耳を塞いでも、聞こえた。
生まれたのは、人の子じゃない。妖怪の子。娘の命は助からない、骸だって残らない。そう思った。
「わぁぁぁぁ。」
妹の骸に縋り、泣き叫ぶ。
クベは何も言わず、ただ見守った。二人きりにしたかったが、残っているかも。そう思うと、離れられなかった。
バケモノである。どんなに潰しても、何が起こるか分からない。
大石は大国だった。耶万の近くに在るから、幾度も攻められた。仕掛けられ、戦い、守り切る。その繰り返し。
耶万に敗れ、大石は滅んだ。生き残りは奴婢にされ、酷い扱いを。
それでも生き残った。生き残ったのに、こんな死に方を。
きっと妹を守るため、戦ったんだ。足を引き摺っている。家に入ったのは、この子だけ。たった一人、残った妹を失った。これから、どうやって。
オレには姉さんも、妹も居た。だから生きられた、戦えた。守れず死んだけど、お別れ出来た。そうだ、死ねば隠になる。手厚く葬って、見送ろう。そうすれば。
そんなコト言えない。
オレが話せたのは、妖怪になったから。『隠と話せる』なんて、言えないよ。この子は人だ、妖怪じゃない。
「クベさん。」
「何だい。」
「ありがとう。妹を・・・・・・守ってくれて。」
骸が残るとは思わなかった。バケモノの子は、母の骸を食らうから。残らず丸ごと、バリバリ食らうから。
腹は。あの音、やっぱり。でも他は。顔、身なりも整えて、会わせてくれた。お別れ出来るように。
「焼くんですね。」
「家ごと。このまま、送ろうと思う。」
「そうですか。」
「髪、切るかい?」
「はい。」
差し出された石器で、妹の髪を一房。返したら、布を渡された。そっと包んで、胸に。涙が止まらない。ボロボロ、ボタボタ流れる。
抱きしめられて大泣きした。泣いて泣いて、声が出なくなるまで泣いた。
「花、摘んできた。」
バケモノを焼きに出たミカが、戻ってきた。
「あっ。」
『ありがとう』って言いたいのに、声が出ない。