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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
大貝山編
546/1583

8-30 お別れ出来るように


むくろを整え、そっと目を閉じる。クワッと開いた目、歪んだ顔なんて、誰にも見せたくないだろう。女の子だ。出来る限り、美しい姿で会わせたい。


バケモノの骸をかめに入れ、ふたをした。近寄らないように言ってから、離れた所で残らず焼く。この家も焼こう。この娘を送るため、弔うためにも。



「片付けたが、中に入るのは。」


親、そう言いかけてめた。この娘の親は、きっと。


「オレ、兄です。」


この子より幼かったのか、あの娘は。




「クベ、そばに。オレは焼いてくる。」


そう言ってミカが甕を抱え、背を向けた。


「はい。さぁ、行こう。」


ヨタヨタ歩く兄を支え、クベは家の中へ。



他の皆、誰も何も言えなかった。人とは違う叫び声、何かを叩き潰す音。離れていたのに聞こえた。耳を塞いでも、聞こえた。


生まれたのは、人の子じゃない。妖怪の子。娘の命は助からない、骸だって残らない。そう思った。



「わぁぁぁぁ。」


妹の骸にすがり、泣き叫ぶ。






クベは何も言わず、ただ見守った。二人きりにしたかったが、残っているかも。そう思うと、離れられなかった。


バケモノである。どんなに潰しても、何が起こるか分からない。



大石は大国おおくにだった。耶万やまの近くに在るから、幾度いくたびも攻められた。仕掛けられ、戦い、守り切る。その繰り返し。


耶万に敗れ、大石は滅んだ。生き残りは奴婢ぬひにされ、酷い扱いを。



それでも生き残った。生き残ったのに、こんな死に方を。


きっと妹を守るため、戦ったんだ。足を引き摺っている。家に入ったのは、この子だけ。たった一人、残った妹を失った。これから、どうやって。




オレには姉さんも、妹も居た。だから生きられた、戦えた。守れず死んだけど、お別れ出来た。そうだ、死ねばおにになる。手厚く葬って、見送ろう。そうすれば。



そんなコト言えない。


オレが話せたのは、妖怪になったから。『隠と話せる』なんて、言えないよ。この子は人だ、妖怪じゃない。




「クベさん。」


「何だい。」


「ありがとう。妹を・・・・・・守ってくれて。」



骸が残るとは思わなかった。バケモノの子は、母の骸を食らうから。残らず丸ごと、バリバリ食らうから。


腹は。あの音、やっぱり。でも他は。顔、身なりも整えて、会わせてくれた。お別れ出来るように。




「焼くんですね。」


「家ごと。このまま、送ろうと思う。」


「そうですか。」


「髪、切るかい?」


「はい。」



差し出された石器で、妹の髪を一房ひとふさ。返したら、布を渡された。そっと包んで、胸に。涙が止まらない。ボロボロ、ボタボタ流れる。


抱きしめられて大泣きした。泣いて泣いて、声が出なくなるまで泣いた。






「花、摘んできた。」


バケモノを焼きに出たミカが、戻ってきた。


「あっ。」



『ありがとう』って言いたいのに、声が出ない。


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