8-29 先ず、コレを
「クベさま! 子が、腹が。」
娘たちを支えている、御婆が叫ぶ。
「どうした。」
ミカに問われ、泣き崩れながら叫んだ。
「ボコボコ暴れてぇぇ。」
妖怪の子を孕んだ娘たちは、同じ家に集められている。皆ガリガリに痩せ細り、起き上がる事も出来ない。
「他の娘を出せ。今すぐ移すんだ。」
ミカに言われ、男たちが動く。
「行くぞ、クベ。」
「はい。」
いつもは一声かけて、気を使いながらソッと入る。けれど、何も言わずに飛び込んだ。一人づつ抱えて、使っていない産屋に運ぶ。
「悪いが、オレたちが。」
生まれてくるのは、バケモノだろう。産婆にも判っている。だから何も言わず、頷いた。
「お願いします。」
弟だろうか。唇をキュッと結び、頭を下げた。
残された娘は、どう見ても子だ。十、いや八つくらいか。小さな体からは考えられない、大きくパンパンに膨れた腹。今にも弾けそうで、見ているダケで怖い。
膨らみ過ぎて、透けて見える。胎の子が拳を振り上げ、跳ねている。その度に叩きつけられ、白目で泡を吹く娘。
ウッウッと低く呻いているので、まだ生きている。
「娘さん。」
ミカが娘の肩を掴み、声をかける。
「ご、ろ・・・・・・、じで。」
こんな小さな体では、お産に耐えられない。生まれてくる子が、人の子であっても。
大石の子は大きい、ガッチリしている。だが、この娘は子だ。怖かっただろう、痛かっただろう。恐ろしかっただろう。
詳しい事は分からない。見知った顔か、知らぬ顔か。どちらにせよ、こんな子に・・・・・・。
「バンッ!」
腹が弾けた。ドサッと倒れ、モゴモゴ動く。ヌッと顔を上げ、ニッタァ。
「ウギャァァ。」
ミカが手にした薪を、バケモノの口に噛ませた。
「クベ!」
ハッとして、炉の石を持ち上げる。
「ヤァァァ!」
繰り返し叩く、叩く、叩く。
ドン、ゴン、ベチャ。
「ギャァァ!」
ミカがバケモノを押さえつけ、クベが頭を叩き潰す。体は小さく、頭は大きい。幼子と同じくらい。こんなバケモノが、こんな小さな子の腹に。
息をするのも苦しかっただろう。腹に岩が入っているような、叩きつけられるような、そんな痛みに耐えて。
ごめん、殺さなきゃ。ごめん。ごめんよ。
ドチャ、バキッ。ビチャ、ベチャ。
「ギャァァァァァァァァァ。」
頭蓋が砕け、脳髄が飛び散り、眼球が転がった。頸椎が砕けて直ぐ、ミカはバケモノの体に膝を立てた。脊髄を砕き、バキッと押し潰す。
頭をクベ、体をミカに砕かれ、やっと死んだ。
母は・・・・・・、死んでいた。命は救えなかった。けれど、骸は残った。




