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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
大貝山編
544/1582

8-28 知らせを受けて


「ミカさん、オレ。」


「頭、潰したか。」


「・・・・・・はい。」


「それで良い。」



加津にも大石にも、神は御坐おわす。耶万やまに滅ぼされた時、やしろも潰された。直ぐに生き残りがフラフラと、黙って石を集め、祈りながら積む。


耶万の闇にも耐え、子らの命を守り抜かれた。それで御身おんみが縮んで、てのひらほどの大きさに。ミカにもクベにも、祝の力は無い。しかし許され、社に身を寄せている。



加津神かづのかみの使わしめは、鳶の妖怪。大石神おおいしのかみの使わしめは、犬の妖怪。急ぎ伝える時には、使わしめに頼る他ない。



加津と大石は離れている。


ミカもクベも妖怪だが、人として過ごした時の方が長い。つまり、力は弱い。牙も角も有るが、引っ込んでいる。


だから、なのだろうか。人より強く、人にも物にも触れられる。



「何とか、ならないモンでしょうか。」


「オレたち二人とも、人じゃナイってダケの妖怪だ。何とか出来るなら、何だって。でも出来ない。だから人に出来ない事を、国を守るために・・・・・・殺すしか。」



人の子として生まれたなら、殺さない。人に託して見守る。しかし、生まれたのはバケモノ。人と妖怪の合いの子。人を食らうバケモノだ。


嬰児みどりごでも力が強く、母のむくろをバリバリ食らう。しかも、一口で飲み込んだ。見た目は人でも、人じゃ無い。違う。だから直ぐ、潰した。



産屋うぶやから産婆たちが這い出して。だから急いで、抱えて投げた。外に動ける男を待たせてたから、転んだりいたり、してナイ。」


「そうか。」


「赤子がキャッキャ笑いながら、四つん這いで出てきた。生まれて直ぐだ、化け物に違いない。」


「そうだな。」


「産婆が叫んだ。『一口で』って。」


「そうか。」


「立ち上がろうとしたんだ。だから『逃げろ』って叫んで、赤子の頭を。」


「そうか。」



ミカはクベを抱きしめ、背をポンポンと、優しく叩いた。



加津で生まれた合いの子は、体が無かったり小さかったり。人の子と全く違っていたから、迷わず殺せた。


もし、人の姿をしていたら。母の骸を食らう前に、産婆を食らったら。



産屋に男は入れない。許しが出るまで、入れない。だから外で、生まれるのを待つ。取り上げたら直ぐ、外に出るよう言ってある。


このたびは生まれて直ぐ、母の骸を食らった。だから皆、逃げ出せた。這い出してきた。もし・・・・・・。考えたくナイ。けど、考えなきゃ。



これまで生まれたのは皆、バケモノだった。加津でも大石でも。これから生まれるのも、バケモノだろう。


お産は命懸け、女のいくさだ。男が手を貸すなんて有り得ない。けど生まれる時いなけりゃ、女たちを守れない。




みんな言うんだ、『産みたい』って。みんな言うんだ、『私の子だ』って。『誰の子か分からないけど、育てたい』って。そう言うんだよ。


バケモノは早く生まれる。人の子より、ずっと早く生まれるんだ。だからわかる。それでも言うんだ。『産みたい』って。



「クベ。オレがいる、一人じゃない。」


「はい。ありがとうございます、ミカさん。」


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