8-26 私は、恐ろしい
はじまりの一族は末流に至るまで皆、等しく失った。化け王によって、全ての才が奪われた。
送り込まれたバケモノは、才を奪われた王族により生み出された、新たなバケモノ。日の下に出られず、夜にしか動けない。
「申し上げます。人の世、中の東国。霧雲山の統べる地を除き、閉ざされました。」
「そうか。疲れたろう、夜まで休みなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
化け王は、臣を呼び戻された。つまり新たなバケモノは、生き血を啜る。化け王に守られていても危ない、という事。何れにせよ、手出しさせぬわ!
隠の世、妖怪の墓場も閉ざした。治めの神も、統べる地を。中つ国で開いているのは、人の世だけ。今は開いている湖も、夜明けと共に閉ざされる。
さぁ、どうするバケモノ。隠の世には入れぬぞ。
人の世に留まるのは、望まれて国守になった妖怪。守ると決めた合いの子に手を出せば、命は無い。それでも戦うか。
「どど、どうする。」
「どうもこうも、許し札を持たずに入れば。」
「魂を食らい尽くされる。」
西国の使わしめたち、真っ青。
「しかし他に。」
「戻るか、鎮の東国に。」
「いや、閉ざされた。」
真中の七国は開いているが、頼れない。鎮の西国ほどでは無いが、闇が溢れている。国つ神は守る地を閉じ、社に御籠り遊ばした。
人は戦に明け暮れて、闇を濃くするばかり。このままではイケナイ。分かっているが、どうすれば。
「戻ろう。」
「しかし。」
「ありのまま、御伝えするしか無い。」
霧雲山の統べる地は開いているが、よく見ると閉ざされている。同じだ。守る地を御閉じ遊ばし、社に。魂食山は開いているので、議るには持って来い。
手分けしてアッチコッチ飛び回っていた使わしめたち。ワラワラ集まり、喧喧諤諤。
「あっ。」
「えっ。」
日が暮れた。月のない夜、辺りは真っ暗。魂食湖に呼ばれているような気がして、フラフラァ。
「気を確かに。」
「シッカリしろ。」
「戻ろう!」
決まったものの、闇夜を行くのは危ない。夜が明けるまで、この場に留まることに。ガクガク、ブルブル。
「スオさま。私は、人なのでしょうか。」
「アコは人の子。祝の子か、孫であろう。」
「私は恐ろしい。日に日に闇が、この身に馴染むのです。」
良那神の使わしめ、スオは知っている。耶万の継ぐ子アコは、優しく強い子だと。
望んで歪んだのでは無い。生き残るため、歪んでしまったのだ。
闇の力が出なかったのは、使い捨てられると解っていたから。心の奥底に沈め、生きようとしたから。