8-24 方針、決定
「戻りました。隠の世に暮らす隠、妖怪。全く見当たりません。」
隠たちに聞きまわり、やっと分かった。朝から昼前まで、使い隠たちが飛び回り、隠や妖怪を連れ戻したと。
人の世にいるのは、人の世の隠や妖怪。隠の世の隠も妖怪も、逃げ帰ったのか。
「昼までに戻れぬ隠や妖怪のため、魂食湖が残されました。けれど次の夜、閉ざされると。」
「ありがとう。ゆっくり休みなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
魂食湖。許し札を持たずに入れば、生きていようが死んでいようが関わりなく、魂を食らい尽くされる。
そのような湖まで閉ざさなければ、隠の世を守れない。そう、御考え遊ばしたのか。
西国で溢れた闇、いや違う。闇だけなら、魂食湖は残される。
とんでもなく大きな戦、いや違う。耶万で溢れた闇から守るため、急ぎ閉ざされたのは、大貝山の統べる地のみ。
やまとに入ったバケモノが、人の世で暮らす隠か妖怪に何か。それで人の世が荒れ、隠の世に禍を。
だから閉ざされた、急ぎ閉ざされた。二夜も残されたのは初めての事で、何が起こるか分からないから。
この度、閉ざされた隠の世は四つ。四つ国、南国、中の東国、鎮の東国。
鎮の西国と中の西国は、ずっと前に。真中の七国が閉ざされたのは、少し前と聞く。
閉ざされても許し札が有れば、出入り出来る。だから閉ざした人の世には知らせず、妖怪の墓場を通る。
人の世には閉ざす時、知らせれば良い。だから西国と、真中の七国の使わしめはココまで。
「議るか。いや先ず、西国で何が起きているのかを。」
とんでもなく恐ろしい、何かが起こる。それは、いや無い。もしそうなら、伝えられる筈だ。
隠の世も妖怪の墓場も閉ざされた今、こちらから伺う事も、使いを出す事も出来ない。魂食湖へは、行かせられない。さて、困った。
「良山に使いを。いや、乱雲山に使いを?」
なぜ、そう思う。大蛇神は仰った。『人の世の事は、人の世で。隠の世の事は、隠の世で』と。
この度の事は、人の世の事。だから閉じ為さった。隠の世を守るため、人の世で収めさせるために。
人の世で収められる禍なのか、西国で溢れた闇は。いや違う、そうでは無い。隠の世を守るため、隠や妖怪の暮らしを守るため、御決め遊ばしたのだ。
「耶万と、西国の違い。」
良山が在るのは、霧雲山の統べる地。その南に在るのが、大貝山の統べる地。良山は確か、霧雲山の南。真中に無くて、北と南に在るモノ。・・・・・・海。
海に出たければ、川を下れば良い。霧雲山の南から海へ流れる川が、大貝山の統べる地を通っていれば。
「そうか。愛し子の幸せを、守るために。」
魂食湖は、霧雲山の統べる地に在る。湖が閉ざされれば直ぐ、丸ごと閉ざされるだろう。知らせは、統べる神の社に届けられた。
神成山の統べる地が閉ざされた、という話は聞かない。もし夜までに、いや昼までに閉ざされれば、その時。
この地は西国から遠く離れている。確かめてからでも遅くない。
「閉ざそう。国つ神とカムイにも、話を通さねば。」