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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
釜戸社編
54/1617

4-8 守り人の村

釜戸山には、祝の裁きを待つ罪人が、多くいる。早稲の三人だけではない。



早稲の罪人ども。



その行いは、どうしても認められない。受け入れられない。


残された物、見た者、聞いた者が揃っており、裁く妨げがないことから、先に。そういう声も、出た。けれど、他の罪人と同じように、待たせることになった。



「他にも、罪を重ねているかもしれない」



馬守の村の長、シキだけではない。野呂のろの鷲の目、野比のび木菟ずくも言っていた。


しかも、伝え聞いたのではなく、聞いたと。




霧雲山には、広く忍ぶ者がいる。いろいろな村へ行き、いろいろなことを知る。どちらも、祝の使い。祝辺の守の使いでも、ある。


決して、嘘は言わない。




昼過ぎ、早稲の罪人が来た。


「遅くなり、申し訳ない。」


狩り長と守り長。二人の長が揃うなど、そうない。犬が睨むようにして、ずっと呻っている。


ひとやは開けてあるかい。」


「もちろん。」


「では、行こうか。」




三人の罪人が、子を奪われた親たちの手で、獄に繋がれた。


それから、犬に水を飲ませる。


ずっと呻って、のどが乾いていたのだろう。二杯も飲んだ。




「裁きまで日がある。一度、村へ戻るかい。」


「いいえ、守り長。ワシは残ります。」


「ワシも残ります。」


ヒデとゴウが言った。



「シノのことが気になりますが、ワシも残ります。茅野まで、遠い。」



末っ子タツのむくろが、どんなだったか。聞いてすぐ、狂ったように、泣き喚いた。


子を奪われた母たちは皆、臥せったまま。中でもシノは、涙が枯れてしまったらしい。



泣けるうちは幸せだ。泣けなくなったら、闇に飲まれる。



「もうすぐ、孫が生まれる。タツの代わりに、とは思わない。タツはタツだ。でも、慰めになれば。」


そばにいたい。いてやりたい。でも、タツを奪った罪人の、今わを見届けたい。そう思う。


いつ、どこで、何があったのか。なぜタツが、あんな酷い、惨いことになったのか。


親として、知らなければ、知っておかなければ、と。


知ったところで、タツは戻らない。タツだけじゃない。ヒコも、サブも戻らない。それでも。




「そうか、わかった。みんな、疲れたろう。待ち人の家で休んでくれ。」


「ありがとうございます。」




「罪人の今わを見届けたい」と願う者は、多い。


その願いを叶えるため、守り人の村には、待ち人のための家がある。




父たちは、だまって昼餉を食べ、横になった。


涙が溢れる。


やっと、やっとここまで来た。




いなくなったと気づき、探し回った。


狩り人の小屋へ、駆け込んだ。暗くなる前に、見つけなければ。


いくら探しても、見つからない。探して、探して、探して。でも、見つからない。そして・・・・・・。




こうしておけば。ああしておけば。そんなことばかり考える。


我が子の、変わり果てた姿。震えながら、触れた。冷たかった。あんなに温かく、柔らかかったのに。


叫びたい。泣き叫びたい。



返してくれ。オレの子を、返してくれ!






「カイ、そろそろ戻るよ。」


「そうか。ありがとう、ゴン。」


「ん。」


「オレ一人じゃ、どうなっていたか。」



「早稲まで行って、戻ったんだ。ゆっくり休んでくれ。落ち着いたら、酒を飲もう。」


「酒か、いいな。」


「またな。」


そう言って、手を振った。


「またな。」


見えなくなるまで、見送った。


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