4-8 守り人の村
釜戸山には、祝の裁きを待つ罪人が、多くいる。早稲の三人だけではない。
早稲の罪人ども。
その行いは、どうしても認められない。受け入れられない。
残された物、見た者、聞いた者が揃っており、裁く妨げがないことから、先に。そういう声も、出た。けれど、他の罪人と同じように、待たせることになった。
「他にも、罪を重ねているかもしれない」
馬守の村の長、シキだけではない。野呂の鷲の目、野比の木菟も言っていた。
しかも、伝え聞いたのではなく、聞いたと。
霧雲山には、広く忍ぶ者がいる。いろいろな村へ行き、いろいろなことを知る。どちらも、祝の使い。祝辺の守の使いでも、ある。
決して、嘘は言わない。
昼過ぎ、早稲の罪人が来た。
「遅くなり、申し訳ない。」
狩り長と守り長。二人の長が揃うなど、そうない。犬が睨むようにして、ずっと呻っている。
「獄は開けてあるかい。」
「もちろん。」
「では、行こうか。」
三人の罪人が、子を奪われた親たちの手で、獄に繋がれた。
それから、犬に水を飲ませる。
ずっと呻って、のどが乾いていたのだろう。二杯も飲んだ。
「裁きまで日がある。一度、村へ戻るかい。」
「いいえ、守り長。ワシは残ります。」
「ワシも残ります。」
ヒデとゴウが言った。
「シノのことが気になりますが、ワシも残ります。茅野まで、遠い。」
末っ子タツの骸が、どんなだったか。聞いてすぐ、狂ったように、泣き喚いた。
子を奪われた母たちは皆、臥せったまま。中でもシノは、涙が枯れてしまったらしい。
泣けるうちは幸せだ。泣けなくなったら、闇に飲まれる。
「もうすぐ、孫が生まれる。タツの代わりに、とは思わない。タツはタツだ。でも、慰めになれば。」
そばにいたい。いてやりたい。でも、タツを奪った罪人の、今わを見届けたい。そう思う。
いつ、どこで、何があったのか。なぜタツが、あんな酷い、惨いことになったのか。
親として、知らなければ、知っておかなければ、と。
知ったところで、タツは戻らない。タツだけじゃない。ヒコも、サブも戻らない。それでも。
「そうか、わかった。みんな、疲れたろう。待ち人の家で休んでくれ。」
「ありがとうございます。」
「罪人の今わを見届けたい」と願う者は、多い。
その願いを叶えるため、守り人の村には、待ち人のための家がある。
父たちは、だまって昼餉を食べ、横になった。
涙が溢れる。
やっと、やっとここまで来た。
いなくなったと気づき、探し回った。
狩り人の小屋へ、駆け込んだ。暗くなる前に、見つけなければ。
いくら探しても、見つからない。探して、探して、探して。でも、見つからない。そして・・・・・・。
こうしておけば。ああしておけば。そんなことばかり考える。
我が子の、変わり果てた姿。震えながら、触れた。冷たかった。あんなに温かく、柔らかかったのに。
叫びたい。泣き叫びたい。
返してくれ。オレの子を、返してくれ!
「カイ、そろそろ戻るよ。」
「そうか。ありがとう、ゴン。」
「ん。」
「オレ一人じゃ、どうなっていたか。」
「早稲まで行って、戻ったんだ。ゆっくり休んでくれ。落ち着いたら、酒を飲もう。」
「酒か、いいな。」
「またな。」
そう言って、手を振った。
「またな。」
見えなくなるまで、見送った。




