8-22 七日でコウですよ
「タイヘンです! 死にました。」
「死んだ?」
「里が滅びました。」
「戦か?」
「若いのが殺されました。」
「ん?」
・・・・・・何だってぇぇぇ!
人の命は短く、アッサリ死ぬ。病で、傷を負って、頭を打つけて。争って、諍いで、戦で。老いて死ぬまで生きる人が、だんだん少なくなっている。
しかし何だ! 血を抜かれて死ぬ? そんな話、聞いたコトが無い。眠るまでは生きていたのに、朝になったら死んでいた。骸の首筋には、穴が二つ。
獣に噛まれたなら、歯の跡がつく。残されたのは穴だけ。とすると、長い牙を持つ何か。
「隠の世、隠神に使いを。」
「それが、その。」
「何だ。」
「出雲にて隠から・・・・・・その、イロイロと。」
虐めたからね、マノを。嫌われたからね、蛇から。
「そうであった。」
心当たりが有り過ぎて、お顔の色が優れません。
人の世も隠の世も、中つ国に在る。人の世を閉ざす事は出来ないが、隠の世は閉ざせる。
はじまりの隠神は躊躇わず、御力を揮われるだろう。天つ国、根の国とも結ばれ、隠の世を守り為さる。
閉ざされた。それが全て。
禍が齎される前に、西国を。ならば四つ国、真中の七国から行けば良い。となれば、和山社へ。
いや待てよ。大蛇神の愛し子は確か、良山だったか。霧雲山の統べる地で暮らす、祝の力を生まれ持った幼子。
隠の世へ行かずとも、そこへ行けば良い。
「良山へ行き、大蛇神に御頼みしよう。」
「どちらの良山で。」
「霧雲山の統べる地に在る、良山だ。」
・・・・・・ん?
杵築大社での神議り。その後に開かれた、一九社での議りに御出でなら、御存知のハズ。
大実山が、良山に変わったコト。愛し子に、強い力が有るコトも。
「さあ、急いで言伝を。」
「ハッ、はい。」
良山って、ドコに在るのぉぉ!
「ニャ、ニャァ。」 グ、グルジイ。
断れるなら、断りたかった。人の世から溢れた闇は濃く、深い。幾ら隠が闇に強くても、アレはイケナイ。だから務めた。で、こうなった。
人の世の神はスゴイな。あの闇に曝され続けても、ピンピンしていた。七日でコウですよ、私。
「猫神。今、暫く。」
隠の祝ミツが、ソッと触れる。
「ニャァ。」 ハァァ。
少しづつ闇が清められ、体が軽くなった。
人の世で受けた闇は強く、一度で清める事は出来なかった。いや清められるが、障りが。
隠神は闇に御強い。神で在らせられるのだ、光にも御強い。とはいえ、弱った御体には毒。だから少しづつ、ゆっくりユックリ清めなければ。