8-21 緊急バケモノ警報、発令
化け王が、臣を戻した。姿を消す事が出来るブランを隠すのでは無く、呼び戻した。それだけ危ない『何か』が起こる。いや、起きた。
大社での神議り。七日の間、人の世を預かり為さった猫神が、戻られて直ぐ。闇に強い隠が、それも治めの隠が倒れ為さった。
耶万から溢れた闇より、深く濃い闇なのだろう。
鎮の西国に中の西国、真中の七国も閉じた。万が一に備え四つ国、南国、中の東国、鎮の東国。全て閉じよう。
伝えたい事があれば、社から使いを出せば良い。夜が明けたら、使い蛇を。
隠の世から許し無く、人の世へは行けぬ。直ぐに戻れぬ所なら、治めの隠。直ぐ戻れる所なら、保ち隠。どちらかの許しを得ねば、外へは出られぬ。
知らせるのは朝、閉ざすのは昼。戻れぬ隠や妖怪のため、魂食湖は二夜、残そう。
蝙蝠神からの知らせを受けて直ぐ、姿を消した。つまりアンリエヌの者であっても、化け王に仕える者では無い。と、いう事。
はじまりの一族は、化け王を入れて五人。アンリエヌから出られるのは、化け王のみ。『才』と呼ばれる力を奪われた、他の四人が動けるのは、確か夜だけ。
他の四人が許し無く、生き血を啜る臣か何かを、やまとに送り込んだ。その者らが何か、いや違う。その者らの力が奪われ、禍を齎すのだ。
合っていれば明くる日、和山か霧雲山へ御出で遊ばす。その時、伺えば良い。化け王が見守るのは、霧雲山の統べる地・・・・・・。
「まさか!」
マル特製、石積みの社が揺れた。
「朝早く、申し訳ない。しかし急ぐのだ。」
和山社に集められた使い蛇、シュルっと蜷局を正す。
「やまと隠の世。魂食湖を除き、全て閉ざす。」
パチクリ。
「残すのは二夜。夜明けと共に、閉ざす。」
ポッカァン。
西国で溢れた闇は、深く濃い。杵築大社での議りの間、猫神が人の世をお守りに。
務めを果たされた猫神が、社に御戻り遊ばして直ぐ、倒れ為さった。それだけでも大事なのに、蝙蝠神が和山社へ。
西国で何か、とても恐ろしい事が起きている。西国は閉ざされているから? いやいやトンデモナイ。
「では皆、急ぎ言伝を。」
「ハイ!」
シュル、シュルルゥ。
「なっ!」
「えっ!」
「ひっ!」
やまとに、アンリエヌのバケモノが入った。
化け王は良いバケモノだが、入ったのは悪いバケモノ。首に齧り付き、生き血を啜る。骸の首筋に、牙の跡が残されていた。
姿は人。獣とは違うが、牙を隠し持つ。バケモノとしか言いようがない。そんな生き物が、霧雲山を目指している。
鎮の西国から中の東国まで、血を奪われた骸が転がるのか!
バケモノが動けるのは夜、隠の世が閉ざされるのは昼。外に出ている隠たちに伝え、急いで戻さなければ。