8-20 人の世で何か
何を考えて。いや、考える事を放棄したのだろう。才を奪われたとはいえ、酷すぎる。そもそも才を奪えると、本気で考えているのか。
有り得ない。器が拒絶反応を示し、胎の中で死ぬ。
仮にエンから才を奪えたとして、どう使う。
病や怪我で死なないダケで、老いれば死ぬ。傷が消えるワケでも、塞がるワケでも無い。骨が砕けても死ねない。胸を貫かれても死ねない。
痛みは蓄積され、体力を奪い、死を希うようになる。それでも老衰するまで死ねない。そんな才が欲しいのか。
不死の才など無くとも、日の下に出なければ生きられる。それでも欲するか。
収集の才には形が無い。無限に広がる、永遠に保てる。化け物のような器を持つ、生まれながらの化け物。始まりと終わりを司る王、それが化け王。
忌み嫌われる才だの、汚らわしい才だのと罵られ、常に見下されていた。
歴代化け王が短命なのは、収集の才が原因? いや違う。心的負担が大き過ぎて、耐えられず壊れるのだ。中には自ら、命を絶った王も。
「ブラン。」
「はい。」
「鎮の西国に、大王の手の者が上陸した。そちらへ向かっている。だから今すぐ、戻っておいで。」
「はい、喜んで。」
ビューン。
カーが国王として治め、守るのはアンリエヌ。霧雲山の統べる地には、山守神が御坐す。見守り、稀に手を貸すのは、エンとの約束だから。
化け王城で働く者は、全て家族。種族の違いなど些細な事。大切な家族を危険に曝すなど、有り得ない。
「カー様! ただいま戻りました。」
鳥の谷から化け王城まで、瞬間移動。
「御帰り、ブラン。」
優しく撫でられ、ウットリ。
やまとに潜った大王の使いは、二人とも死ぬ。人と妖怪の子を食らい、挑んだ戦いに敗れ、食い殺される。一人はソコソコ戦うが、一人はアッサリ。
バケモノの味を覚えた合いの子は、魔物を求めて東を目指す。魔力に飢えたヤツラにとって、ブランは極上肉。
暫く荒れるだろうが、他国の事。エンには悪いが、落ち着くまでは引く。
「さあ、おあがり。」
「いただきます。」
賜った羊の肉を、美味しそうにモグモグ。
特質系伝達の才で、離れていても意思疎通は出来る。特質系転移の才で、鳥の谷に在る崖の洞から化け王城まで、安全に移る事も。こちらは少し、かかるが。
転移出来るのは、化け王に仕える魔物のみ。他の魔物や人が触れても、何も起こらない。野生のカンか何かで気付いたとしても、こちらへは来られない。
「ゆっくり羽を休めなさい。」
「はい、ありがとうございます。おやすみなさい、カー様。」
「おやすみ、ブラン。」
「ん。」
引かせた? 人の世で何か、マズイ事が起きるのか。考えられるとすれば、一つ。