8-19 暗中飛躍
「急ぎ、申し上げます。」
ゼイゼイ、ハァハァ。三匹ともボロボロ。大急ぎで知らせなければイケナイ何かが、人の世で起きたのだろう。
「人の姿をした、人では無い生き物が。」
「霧雲山を狙って、入りました。」
「聞き取れたのは三つ。アンナさま、マリィ、はじまりの一族です。」
「なっ、何だってぇ!」
チュチュッ!
「すまない。羽を休めなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
蝙蝠神が御叫び遊ばしたのは、ある言の葉を聞き為さったから。
人では無い生き物、霧雲山、アンナ、マリィ。いや違う。『はじまりの一族』だ。
アンリエヌ国の王族。化け王を含め、生き残りは五人。四人は『吸血鬼』と、呼ぶらしい。
化け王は何でも出来る。アンリエヌから遠く離れた所へも、迷わず直ぐに行ける。そう聞いた。だから使い隠が見つけた生き物は、化け王の使いでは無い。
となると、残りの四人。化け王の兄か姉に言われて、やってきた。
「和山社へ行く。」
ビュゥン!
「いってらっしゃいませ。」
ぶら下がったままパチクリ。それから恭しく、頭を上げた。
「で、首尾は。」
アンリエヌ国、エド大王。王城地下にある玉座の間にて、外務卿に問う。
「外交官アンナ、補佐官マリィ。両名、やまと上陸。」
アンリエヌの国王は、化け王。王城地下に居るのは、権力を持たない王族たち。エド大王、ジャド大臣、ベン大臣、ウィ大臣。
大王も大臣も名誉職。国王の兄姉だからと、与えられた肩書。
飾りだが、はじまりの一族。能力も権力も無いが、崇め仕える過激派が存在する。その筆頭が外務卿。同じく名誉職だが、暗中飛躍。
職務内容は暗殺指揮と、諜報員の育成。つまりアンナは諜報員、マリィは諜報技官である。
「カー配下の魔物が多く、潜んでいる筈だ。」
「ジャド様。その魔物、我らとは。」
「違う。姿を消せる魔物、姿を変えられる魔物。他にも居るだろう。」
はい、居ます。闇に紛れて訓練中。
化け王城で働く者の多くが、アンリエヌの民。他は国を追われた者、国を捨てた者、助けを求めて逃げ込んだ者。住処を追われた魔物や妖怪、人ならざる者。
人は直ぐ死ぬので、滅多に国外に出さない。出すときは必ず、魔物を護衛につける。気付かれる事は無いが、気配を消す訓練として、派遣される事も。
「分かっているのは二匹。鷲の魔物ブラン、古狐の魔物ネージュ。白い魔物に注意するよう、伝えよ。」
「ハッ。」
大王直属、諜報部長官。外務卿フェンが敬礼し、下がった。
「行ったか。」
「はい。」
エドとジャド、揃って悪い顔。
居ますよ。蝙蝠に化けた、ネージュが上に。訓練生が物陰に。