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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
大貝山編
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8-17 生まれる子に、罪は無い


「受け入れ先は、流山ですか。一山いちのやまですか。」


鼠神、キリッ。


「まず、それぞれのやしろで引き取る。おにときでも生きられる。そう思えば、大貝社おおかいのやしろへ。さらに見極め、障り無ければ一山へ。障りが有れば、流山へ。」


大蛇神おろちのかみ、ニコッ。



それぞれの社で難しいとなれば、直ぐに祓い清める。一柱で難しければ、近くに御坐おわす二柱が、御力添えくださる。人の世で生かすか、清めるか。決め為さるのは国つ神。


大貝山の統べる地で生まれる、人になれない生き物は弱い。何だカンだで、清められている。人として生まれれば良いが、妖怪として生まれるだろう。


ひたいに角が生えていても、いなくても、妖怪である事に変わりない。当たり前だが、人の世では生きられない。置いておけない。



耶万やまには流山の妖狐、嫌呂きろろ悪鬼おきが居る。どちらも心を入れ替え、良い妖怪に生まれ変わった。人との関わり、付き合いも慣れたモノ。


それに新しい王が治められるよう、万十まと氛冶ふや大臣おおおみが支える。耶万社の継ぐ子、アコが戻るまで、嫌呂たちを残す。



嫌呂も悪鬼も流山に越し、穏やかに暮らして居る。隠の世に暮らす他の妖怪も、社を通した申し入れなら受けるだろう。


一山にある隠の世は、人の世に似ている。似せている、と言った方が良いか。で湯が楽しめる宿があり、仕え事を通して、生きるてだてを身に着けられる。



母が、命を懸けて産んだ子だ。長く生きられなくても、その時が来るまでは、心穏やかに過ごしてほしい。



「流山の保ち隠には、使いを出した。こののち、会って話す。一山の保ち隠には、これから。」



一山の妖怪の墓場には、人に怨みを抱きながら死んだ、多くの妖怪が眠っている。保ち隠である犲の妖怪、ふさぼうも、人に強い怨みを抱いている。



房は母、坊は子。闇の力を纏う獣を従わせる事で、強さを得ようとした人によって、生けにえにされた。とても酷い、殺され方をしたのだ。


前足後足、首にも縄を。それから房は、木にくくりつけられた。それだけでも酷いが、人は房の目の前で坊をなぶり殺し、むくろを引き千切ちぎり、犬に食わせた。



子を助けられず、死なせてしまった。怒り、苦しみ、憎しみが房を縛り、深く濃い闇が生まれる。その闇を纏い、闇の力を得た房は、妖怪に生まれ変わった。



母の泣き叫ぶ声を聞きながら、なぶり殺された坊。怖くて痛くて苦しくて、闇に飲まれそうになった坊。人に対する恨みつらみより、母を想う気持ちが強かった。


闇を纏ったが堕ちず、妖怪に生まれ変わった。



母子は力を得ようとした人が暮らす村を滅ぼし、一山へ逃げ込んだ。


治めの隠で在らせられる鳶神は、母子を気の毒に思い為さる。急ぎ、和山社なぎやまのやしろへ。保ち隠とする許しを得て、御戻り遊ばした。



「房と坊には、私から話しましょう。」


鳶神、ニコリ。


「宜しく、頼みます。」


大蛇神、ホッ。



房も坊も人嫌い。いや、憎んでいる。


人と妖怪の子でも、人が入っていれば人。そう考えるハズ。あまり妖怪の墓場から出ないが、知らされずバッタリ出くわせば、どうなるか。


人の世で生きられず、隠の世でも毛嫌いされれば傷つく。深く傷つく。


そう長くは生きられないのだから、出来る限り、穏やかに暮らしてほしい。


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