8-16 今、考えるのは
「なんと!」
「急ぎ、清めの力を持つ隠を。」
和山社。やまと隠神、集い座して大慌て。
「静まれ。郡山には、隠の祝が居る。」
はじまりの隠神、二コリ。
「ミツなら。」
「そうだ、そうだ。」
雨乞いのため、生け贄に。死しても雨は降らず、葬られるコトなく曝され、膨れた骸が弾けた。それでも雨は降らず、闇を纏ったのがミツ。
強い清めの力を生まれ持っていたので、闇堕ちしなかった。けれど光を失う。人の世の神は、一柱も。猫神はそんな祝に、救いの手を差し伸べ為さった。
隠の世の神は、身も心もボロボロになった祝を受け入れ、清めなさる。ナゼか清めの力が強くなったが、光が戻る事は無いだろう。
隠神は闇に強い。強いが、中てられるコトも。この度、西国で溢れた闇は濃く、深い。幾ら隠神でも、耐えられないホド。
「では、言伝を聞こう。」
「はい。申し上げます。」
闇の深さが隠の強さに。濃く深い闇から生まれた、人とも隠とも妖怪とも違う生き物。人なのに妖怪、妖怪なのに人。人にも妖怪にも受け入れられない、バケモノ。
人の世では生きられない、隠の世でも生きられない。そんな存在が西国で、次次と生まれている。
命と引き換えに産んでくれた、母の骸を食らい尽くす。飢えを凌ぐため、里や村を襲う。人や獣を食らって、食らって食らい尽くしても満たされない。
鎮の西国は、海に囲まれている。中の西国、真中の七国とも陸つづき。
南国と中の東国は、耶万から闇が溢れた時、直ぐに閉ざした。隠の世に禍を齎される事は無い。しかし、人の世は違う。
もし。その時に備え、西国へ遣れない。人の世は人の世で。そう伝えても、隠の世に縋るだろう。
「大祓でも死ななんだ。胎の中で耐え、生き抜いた。生まれねば、清められぬ。」
耶万では、そうだった。西国は違うのだろう。いや、違うのだ。闇の濃さ、深さが。
中の東国。その真中を目指すと、人として死ねない。耶万を攻めれば、生きて戻れない。海も川も山も、恐ろしく静か。逃げようとすると、グイッと引き摺り込まれる。
一人だけ生かされ、戻された兵が言った。ガタガタ震えながら、目をギョロギョロさせながら、ポツリポツリと。
はじめは気にせず、ドンドン送り込んだ。しかし、戻るのは一人きり。皆、同じ。ガタガタ、ギョロギョロ。ポツリ、ポツリ。
それでもドンドン送り込み、兵が足りなくなって気付く。中の東国、その真中。深い深い山奥に、霧雲山が在ると。
「中の東国に攻め入ろう、などと考える者は皆、死んだ。よって今、考えるのは一つ。人になれぬ生き物、その末だ。」
・・・・・・ゴクリ。




