8-14 返送したい
人の世、国つ神の神議り。和やかに進行中。隠の世、隠神の神議り。喧喧囂囂。同じ中つ国に在るのに、二つの世は大違い。
同日同時刻、根の国。伊弉冉尊、御社にてゲッソリ。
「また? またなのかえぇ。」
はい。また、で御座います。
次から次へと送り込まれる、言の葉が通じない魂たち。
雲井社からなら、助言やら忠告やら勧告が出来る。しかしバンバン送り付けられる、これらの魂は・・・・・・。
「ヴギャァァァ。」
「ヲォォォォォ。」
「グギャァァァ。」
話にナラナイ。送り返したい。
「『日に千五百の人の子を産ませるため、千五百の産屋を建てましょう』とか何とか、仰いましたね。」
「ソウデスネ。」
使い隠たち、遠い目。
「その産屋で、ナニ産ませてるのよ!」
控え目に言って、バケモノでしょうか。
「言の葉が通じない。何にでも食らい付く。私にも食らい付く。痛いわ!」
言の葉が、悪しゅう御座います。
大社での神議り、まだまだ続きます。人の世のイザコザ。留守を預かる隠神が、気合と根性で鎮圧しました。とはいえ、イタチごっこ。
隠神の奮闘ムナシク、人と妖怪の子。雨後の筍のように、次次と誕生。
人の世の神が、出雲へ御出かけ遊ばす前。ポンポンと放り込まれた、言の葉が通じない魂たち。御察しの通り、大暴れ。
ジッと出来ない、並べない。叫びながら走り回り、裁きどころか聞き取りも出来ない。捕まえ、縛り、柱に括りつけたが、どうにも。
人と人の子なら、生まれ変わらせる。しかし、人と妖怪の合いの子。それも桁外れの食いしん坊。となれば、扱いも変わってくる。
大祓により清められた魂は、話せなくても言の葉は通じる。裁きを受け、生まれ変われるが・・・・・・。
根の国を閉じれば、中つ国が荒れる。人の世は慌てふためき、隠の世は牙を剥く。
国つ神は穏やかで、ノンビリおっとり。けれど隠神は違う。隠の世を守るためなら、何だって遣って退ける。
「あの言伝、この事でしたか。」
溜息混じりで、伊弉冉尊。
「そのようで。」
使い隠もゲッソリ。
人の世の神議りになど、出る気は無かった。しかし愛し子、マルに勧められては断れない。
大蛇は真っ直ぐ出雲へ行かず、和山社へ寄り、根の国へ使いを出した。
『杵築大社での神議り。七日の間、根の国に禍が齎されるでしょう。その間は人の世で、隠神が力を揮います。なので隠の世では、祓い清められません。どうぞシッカリ備えを』と、御伝えするために。
「清めの力を持つ隠を集め・・・・・・たくても、難しいでしょう。」
ここは根の国。御坐すは、禍つ神のみ。タイヘンだぁ。