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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
釜戸社編
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4-7 狩り人の村

釜戸山は、火の山。たびたび噴き出す。


大きな山だが、村は三つ。


火の川に飲まれる前に、大川から出て、日吉山へ行く。


どちらの山も、助け合いを尊ぶ。だから、仲が良い。


いつからか、釜戸山の灰が降る、すべての村を束ねるようになった。




釜戸社へ行くには、決まりがある。


まず、源の泉から狩り人の村へ、そこから守り人の村。許しを得たのち、釜戸社へ。



守り人の村は、釜戸社との繋がりが強い。どの村もそうだが、特に強い。


ひとやには柵がある。罪人つみびとを、まとめて入れることはない。


釜戸社にも、獄はある。しかし、夜になると、見張りがいなくなる。


社には、離れがある。誰か、住んでいるわけでは、ない。社の司、禰宜、祝人が、入れ替わり、詰めているだけ。




昔、一度だけ。逃げられそうになった。


それからだ、守り人の村に、いくつも獄が、作られた。


決して、逃がさないために。裁きを受けさせ、その報いを受けさせるために。



釜戸山の、灰が降る山には、穏やかな人が多い。酷いことや、惨いことをしようとする、そんな人はいない。


けれど、山より低い地にある村には、いる。そういう人が。


獄が、罪人でいっぱいになる。その度、思う。なぜ、酷いことが出来るんだろう。なぜ、惨いことが出来るんだろう。


酷いことを考えても、しようとは思わない。惨いことを考えても、しようとは思わない。なのに、なぜ?



わからないまま、罪人を獄に繋ぐ。わからないけれど、逃がさない。逃がしてはいけない、ということは、わかる。




守り長にも、子がいる。末っ子が、やっと七つになった。目に入れても痛くない、かわいい子たち。


ふと思う。もし、この子たちの誰かが、奪われたら。耐えられないだろう。許せないだろう。きっと、この手で。



罪人の見張りを、ヨシたちに任せたと聞いた時、驚いた。けれど、止められなかった。


もし。子を奪った罪人が、目の前にいたら。何もせず、待てるのか。いや、待てない。




朝が来た。罪人にも朝餉が出る。しかし、縄を解かれることはない。縛られたまま。ただし、口に噛ませてある布は解く。



まず、犬にエサを与える。モグモグとおいしそうに食べると、ペロリと鼻をなめた。次に水をやる。ピシャピシャとおいしそうに飲んだ。


「ヨォシ、ヨシ。」


犬の頭を撫でる。勢いよく尾を振った。




「朝餉だ。今から口に噛ませてある布を解く。騒ぐなよ。」


タツが頷いた。子と同じ名の、憎んでも、憎みきれない男。オレの子は、タツはもう、飲むことも、食べることもできない。なのに、なのに。


「離せ。ここから出せ。」


「黙れ。」


「うるさい。縄を解け。」


犬が低く呻って、吠えた。


「ワン、ワワン。」 オイ、ダマレ。


狩り長が入ってきた。


「オイ、何を騒いでいる。朝餉、食わん気か。」


「早く縄を解け。オレは悪くない。」


「なっ、なにをぉ。」


グググと堅く握りしめ、振り上げる。


「待て、ヨシ。」




ゴンがタツの髪を掴み、低い声で言った。


「良く聞け。ヨシはな、オマエに子を奪われた。オマエが命を奪った、タツの親だ。その親の前で、悪くないだと。」


髪を引っ張り、タツの口に、飯を突っ込んだ。


「食え。」


裁きを待つ罪人。どんな罪人であっても、酷く扱うことが、禁じられている。狩り長だ。耐え、従ってきた。


しかし、抑えられなかった。溢れ出る怒りを。


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