8-13 人に出来ない事を
「人に出来ない事を。」
「そうだ。」
確かに、早く動ける。力も強い。人に押さえられないバケモノを掴んで、離れた所で。そうすれば守れる。
「他にも、居るのでしょうか。」
「大石にはクベ、加津にはオレ。けどな、そんなに居ないと思う。妖怪になった生き残りは。」
耶万に滅ぼされた国は、とても多い。他にも居ると思いたい。なのに、どこにも。死んで隠になったり、戻った隠も全て、どこか遠くへ。
「先の事は分からない。けど今は生きている人、苦しんでいる女を救おう。救えなくても、出来る限りの事をしよう。」
「そうですね、そうですよね。」
額から生えた角は消えた。光の柱に清められたのか、神様が御救いくださったのか。
何が起きたのか、よく分からない。それでもハッキリ言える。妖怪として残された命が消えるまで、大石を守ると。
ミカさんも同じだ。きっと同じだ。いつも首飾りを二つ、重ねて身に着けている。一つはミミさん、一つはミカさんの。
『神に御許し頂けるまで、妖怪として加津で生きる』って。『許されて死んだら生まれ変わって、ミミと契るんだ』って。そんなコトをさ、照れずに言い切れるミカさん。スゴイよ。
オレは子だけど、思い人なんて居なかったケド、何となく分かる。思いが強ければ強いほど、魂に刻まれるんだ。決して忘れない、忘れられない。
オレは大石、ミカさんは加津を守る。人を守る。命を、暮らしを、幸せを守る。守って守って、守り抜く。そのために、出来る限りのコトをする!
「ヴッ、ヴギャァァァァァ。」
バンッ。
「ヴゥゥゥ。」
ベリッ。
「ギャァァァァ。」
モシャモシャ。モシャモシャ、バリバリ。
「生まれたか。」
「猫神、コレは。」
「育つ。よって刻み、焼べる。」
鎮の西国、儺国。郡山に在る、隠の世。治めの隠で在らせられる猫神。使い隠と共に、妖怪の墓場を通って、人の世へ。
杵築大社から御戻り遊ばすまで、隠の世の神がお守りくださる。とはいえ、濃い闇を抑え続けるのは難しい。よって、稀に生まれてしまう。人と妖怪の、合いの子が。
西国は暖かいので、昔から人が多い。当たり前のように戦が始まり、奪い奪われ奪い合い、闇が広がった。
隠の世では厳しく取り仕切り、治めている。しかし人の世は、目も当てられない。
あっちでポンポン、こっちでポンポン生まれるのだ。
人と人の子なら良い、喜ばしい。スクスク大きく育ち、幸せに暮らせ。しかし、人と妖怪の子は違う。気の毒だが、奪うしか無い。
「次は人か、隠か妖怪に生まれろ。」
使い隠が、ボソッと呟いた。