8-12 人に代わって
「浅木社。」
「おぉ、そうだ!」
「社の司、禰宜、祝。皆、闇の力を生まれ持つ。」
社の司には、耳の穴から闇を注ぎ込み、命を奪う力。生まれた女子の一人にのみ、受け継がれる。
禰宜には物陰など、闇から闇へ移動できる力。生まれた男子の一人にのみ、受け継がれる。
祝には心と体を切り離し、意のままに操る力。女だろうが男だろが、もっとも強い子に受け継がれる。
「浅木神に御願い申し上げ。」
「先ず大蛇神に、御許し頂かねば。」
「フム。」
「フム。」
和山社にて烏神、狗神、鼠神。三柱モグモグ会議、終了。
「どうすれば。」
頭を抱える妖怪が、一妖。
「タダの妖怪に、出来るコトなど。」
溜息を吐く妖怪が、一妖。
「なぁクベ。大石には、どのくらい居る。」
「朝まで生きていたのは、十八。これまで三十五の女が、命を落としました。加津には、どのくらい。」
「朝まで生きていたのは、八。これまで十三の女が、命を落とした。」
「その、生きて。生まれてくると思いますか。」
「難しいだろう。」
何の子か判らない。しかし皆、胎の子に命を。生きる力を奪われているようだ。いくら食べても満たされない。そのうち食べられなくなって、水も受け付けなくなる。
食べても食べても瘦せ細り、飲んでも飲んでもカラカラに渇く。骨と皮になっても、腹だけはブクッと膨れ、グニグニと動く。
「死んだ十三の子、その中の一人がな。親が死んで直ぐ、腹を食い破って出てきた。」
「えっ!」
「驚くのは早いぞ、クベ。」
産屋の中から、女たちが叫びながら出てきたんだ。『どうした』って聞いたら、泣きながら指を指して、ガタガタ震えて話にならない。中に飛び込んで直ぐ、動けなくなったよ。
その生き物は、額から角を生やしていた。
母の骸を、骨ごとバリバリと。頭だけで体が無かったから、直ぐ動かなくなった。けど死んだか、なんて分からない。だから掴んで持ち出して、潰して焼いた。
気の毒だと思う。けどオレは『加津を守る』と決めたんだ。だから、手を抜かなかった。
「骸を、食らった?」
クベの目が、『嘘であってくれ』と訴える。
「そうだ。」
返答を聞き、泣き出しそうな顔に。
「生まれてくる子に罪は無い。けど、生まれる前に母を。そんな子が育って、幸せに暮らせると思うか?」
「それは・・・・・・。」
生まれてくる子が皆、同じとは限らない。人を襲って食らうかも。そう考えると恐ろしくて、叫びそうになる。けどオレたち二人とも、妖怪になった。
妖怪に生まれ変わったのは、妖怪にしか出来ない何かを、人に代わって為すため。そう、考えられないか?