8-11 師匠が、いない
疲れた時には甘いモノ。人の世も、隠の世も同じです。
「そう難しく、考える事は。」
「そうそう。大貝社を、通すのだから。」
「受け入れるのは、耶万の闇から生まれた子のみ。」
モグモグ、美味しいな。モグモグ。
「大祓により、力を削がれたのでしょう。」
「人の子として、生まれれば良いが。」
「難しいでしょうね。」
隠と妖怪は違う。穏やかな最期を迎えれば隠に、死に際に闇を抱えれば妖怪に。隠は何があっても隠。妖怪は闇堕ちし、根の国から出られなくなる。
合いの子は育たない。
死んで生まれたり、生まれて直ぐに死ぬ。器が小さすぎて、収まりきらない。だから、生きられても一年。その時が来れば『パンッ』と弾けて、死んでしまう。
妖怪の子を人が。命と引き換えに産んでも、骸が残らない。産んだ子に食い尽くされる。
「身籠っている、全ての人を社へ。」
「生まれたら直ぐ、引き剥がす。」
「抱かせてやりたいが、食われるからな。」
「せめて骸は、手厚く葬りたい。」
中つ国。人の世に御坐す神の全てが、大社へ呼ばれるワケでは無い。神議りには、選ばれた神が御出で遊ばす。
よって御坐す。闇が溢れた大貝山の統べる地にも、国つ神が。
急ぎ使いを送っても良いが、大蛇神が御戻り遊ばすまでは。と、相成った。
身籠っているのが、人の子とは限らない。産み月が近づくまで判らない。判ってから、社へ迎えれば良い。
「とはいえ、困った。」
「フム。居らぬな。」
「使わしめに。」
「姿を見せられる人が、残って居るか?」
「・・・・・・難しかろう。」
そう、そうなのだ。耶万に滅ぼされ、見える者は皆、連れ去られた。とても悲しいことに皆、死んだ。殺された。その中には、継ぐ子も含まれる。
社を壊されても、作り直した。人がいる限り、幾度でも。祀る人がいれば、御隠れ遊ばす事はナイ。だから御坐す。使わしめも残っている。人に、姿を見せられる。
「耶万は残される事になった。新しい長は知らぬが、社の司には。」
「良那に助けられた継ぐ子、アコ。」
「闇の力を生まれ持ち、目覚めた。」
「使い熟そうと、努めて居る。」
闇の力は守りの力。膜を張って、禍を追い出せる。
「アコを守り導き、鍛えられる隠がなぁ。」
・・・・・・。
乱雲山、雲井社。禰宜クラが生まれ持った力は、ずば抜けている。
闇を纏い、見えない全てを歪められる。膜を張り、外から見えなく出来る。張った膜の中に閉じ込めた、全ての生き物に闇を注ぎ込み、命を奪える。魂を抜き取り、真のみを聞き出せる。
クラの力は強すぎて、人の世では生き難い。だから隠の世で暮らし、裁きに呼ばれれば出る。闇に飲まれぬよう、シッカリ守られ鍛えられた。