8-10 早く御戻りください
「申し上げます。鎮の西国、対国においてウンタラ、カンタラ・・・・・・。」
「申し上げます。鎮の西国、珂国においてナンタラ、カンタラ・・・・・・。」
「申し上げます。アーダコーダで・・・・・・。」
「カァ。」
「烏神。溜息を吐くと、幸せが逃げるそうです。」
「溜息の百や二百、吐きたくもなる。」
「クゥ。」
「狗神。溜息より、遠吠えです。」
「そのような力、残っておらぬわ。」
「チュゥ。」
「鼠神。お疲れのトコロ、申し訳ありませんが。」
「また西国か?」
・・・・・・大蛇神、早く御戻りください!
恐れながら申し上げます。
三柱が叫びたくなる御気持ち、良く分かります。上司の長期出張中に限って、発生するのですよ。トラブルってヤツは。
連絡を取ろうにも、重要会議中で電源が切られている。もう、どうすりゃイイの?
和山社は真っ白。好待遇で働きやすく、離職率が低い。労働環境に不満はアリマセン。しかし、何なんですか。この申し入れの数は!
なんて叫びが、社のアチコチから聞こえます。中つ国では人の世も、隠の世も大騒ぎ。
「耶万の闇は祓い清められたが、西国の闇は。」
「大祓では、どうにも。」
「妖怪の血が強すぎる。」
イザコザが絶えない西国を嫌い、離れた隠や妖怪は多い。西国から四つ国、南国、真中の七国など。
中の東国は人気が高く、移住許可を取るのが難しい。よって選ばれない。なのにドドドと、押し寄せた!
やまと隠の世の、全てを統べる山。和山に住まう神神は、隠の世をお守りくださる。偏る事なく、広く等しく、お守りくださる。
はい、守ります。けれど何だ、この数は。手に余る。
「戦、戦で、骸には困らぬ。」
「にも拘らず、食らい尽くした。」
「飢えを満たすため、とはいえ。」
とりあえず今は、新たな闇は押さえられている。大社から御戻り遊ばすまで、耐えるより他ない。
「申し上げます。大蛇神より、言伝を・・・・・・。」
使い蛇、パチクリ。
驚くのも無理は無い。和山社に御坐す、数多の隠神。揃って、ゲッソリして御出でなのだから。
「大蛇神より、『皆で、どうぞ』と。」
出雲名物『神在団子』をスッと差し出し、ニッコリ。
出雲を発つ時、『ナゼこんなに?』と思いました。こういうコトでしたか。オッとイケナイ、御伝えせねば。
「『耶万で生まれる、人と妖怪の合いの子。大貝社を通し、申し入れが有れば、隠の世で引き取る。詳しくは戻り、伝える』との事。」
・・・・・・ポッカァン。
「神在団子。甘くて、美味しいですよ。」
どうぞ、どうぞ。