4-6 復讐しても
ゴンにも子がいる。もう育ち、孫もいる。しかし、もし。惨いことをされたら、許せない。子だ。それも幼子を奪われた。
母たちは臥せっていると聞く。そりゃそうだ。命がけで産んだ子を、いきなり奪われたんだ。
狩りや病で命を落としたのなら、まだいい。諦めもつく。しかし、奪われた。
「行ってきます」と言って、出掛けた子が、夜になっても帰らない。待っても、待っても、戻らない。そして。何も言わず、冷たくなって。そんな、変わり果てた姿。見せられれば、壊れもする。
早稲。悪い話しか聞かない。そんな村の、長と倅。もっと早く、裁いていたら。今さら、遅い。遅いけれど、考えてしまう。もし、もしも、と。
あの子たちが育って、ひとり立ちする。きっと良い狩り人になっただろう。
好いた娘と契り、親になって。年を取って、孫を抱く。掛け替えのない、幸せな暮らし。
生きて、生きて、生きて。そう。育って、生きるはずだった。
痛かっただろう。怖かっただろう。恐ろしかっただろう。かわいそう、かわいそう。
もし、オレが親なら、この手で。少しの狂いもない、同じ痛みと、苦しみを与えてやる。そして、そして。
帰ってこない。何をしても、死んだ子は戻らない。
虫の鳴き声がする。フクロウが鳴いている。手火がバチバチと、音を立てている。
目の前に、手の届くところに、オレからタツを奪ったヤツがいる。あの子は六つ、たった六つ。
どうしてやろう。殴って、叩いて、蹴って、折って。どんなに、どんなに。何をしても、あの子は帰ってこない。なのに、オレは何度、同じことを考えるんだ。
虫が鳴いている。鳥も鳴いている。オレも泣いている。手火が叫んでいる。オレも叫びたい。
返せ。タツを返せ!
なぁ、ヒコが何をしたんだ。
あの子は、優しい子だ。人の嫌がることなんて、しない。それなのに、それなのに。なぜだ!
痣だらけだった。血が滲んでいた。あんなに、苦しそうな顔で。
なぁ、教えてくれ。ヒコが何をしたんだ。
それは、あんな惨いこと。あんな、あんなに。
オレはな。どの子も、守って育てている。これからも変わらない。
ヒコは末っ子でな、弓がうまくて、誰からも、好かれるような子だった。それを、オマエらが奪った。
返せ。返してくれ。オレの子を返せ。今すぐ、返してくれ。
声がするんだ。「父さん」って、ヒコの声が。声が聞こえるんだ。頼むよ、返してくれ。
オイ、寝るな。起きろ。オレの子を返せ。サブを返せ。
五つの子を甚振って、泣かせて。楽しかったか。
立たせたまま、木に縛り付けて、嬲って。
サブは小さくて、よく熱を出した。三つになって、やっとだ。外を駆けまわるようになった。
木の実が好きでな、「森に連れてって」って。良くねだられたよ。
「大きくなったらな」って。そう言ったら、良く食べるようになった。
四つになって、森に連れて行った。はしゃいでた。うれしそうに、木の実を採って。「みんなに食べさせるんだ」って。笑って。
そんな優しい子を、なぜ。
オイ、サブを返せ。オレの子を返せ。
あの子は、冷たい土の中で、眠っている。
おかしいじゃないか。オマエら、何でヌクヌク生きてるんだ。オレの子は、サブは。もう、帰ってこない。
おい、返せ。サブを返してくれ!
女は凄い。子を、命がけで産む。強い。
胎の中から育てている。男には出来ない。勝てっこない。
男には産めない。だから、生まれると驚く。どうして、どうすれば良いのか、わからない。
同じ子はいない。だから、慌てふためいて、ウロウロ、ウロウロ。どの親も、女も男もなく、ウロウロ、ウロウロ。そうやって子を育てる。
守って、守って、守って育てる。そうして育てた子を、何の前触れもなく、ある日いきなり奪われたら。
死んだ子は戻らない。わかっていても、願ってしまう。返してくれ、と。




