7-159 幸せになるために
耶万で何が起きたのか、人は知らない。けれど逃げ帰った兵は、震えながら言った。『耶万に手を出せば、命は無い』『神が、荒ぶられる』などナド。
鼻で笑ってドンドン送り込んでも、一人しか戻らない。戻った兵は、いつまで経ってもガタガタぶるぶる。全く使い物にナラナイ。
送る兵が居なくなって、やっと気付く。中の東国に仕掛ければ、殺されると。
大祓により、耶万から溢れた闇は消えた。多くの命が奪われたが、間引く事は出来た。けれどまた、何れ。
生きているダケで、罪を犯すのが人。中つ国から、闇が消える事は無い。それでも神は、お守りくださる。
「耶万の皆さん。落ち着いて、聞いてください。」
中の東国、南の地。大稲、大倉、万十。風見、実山、早稲。浅木、岸多、良那。宿儺、儺火、氛冶。
耶万は強い村や国を選んで、人を送り込んでいた。その多くが、逃げ出した者。自ら申し出たり、仕向けて出たカンの良い、賢い者たち。
タタのように、死んでしまった者も多い。それでも、生き残りは居る。
耶万社から逃げ出したり、使いに出された継ぐ子たち。大祓の光を見た事で、見聞き出来るようになった。それぞれ社で学び、耶万へ戻る事になる。
死にかけていた時、良那の使いに助けられたアコは、他の継ぐ子とは少し違う。
気が付くと、闇の力が目覚めた。力を持って生まれたが、長らく眠っていたらしい。良那社において、国と社を分けて治める術を学ぶ。
「今の耶万には、長が居ません。だから決まるまで、万十の大臣が治め、氛冶の大臣が支えを務めます。」
万十が選ばれたのは、耶万から近い武装国家だから。鎮の西国や、真中の七国が攻め込んでも、守れるように。
氛冶が選ばれたのは、海に近い軍事国家だから。もし攻め込んできても、海から直ぐに向かえる。
万十も氛冶も、守るためなら手段を選ばない。しかし、侵略しない。仕掛けない。
「耶万に戻るか、この他に留まるか。良く考えて、決めてください。どちらを選んでも、社から伝えます。」
この度の儀で殺神、風見神、早稲神。大貝神、津久間神、具志古神、海神。鳶神、梟神、亀神。十柱、揃ってヘロヘロ。
耶万神と使わしめマノは、病み上がり? で、動けない。なので暫くの間、嫌呂と悪鬼が、耶万社で働く。
因みに。二妖が離れている間、畑や家の管理を担うのは、流山の狐たち。劇団コンコンの絆は、とっても強い!
耶万社にて、幹部会議が開かれた。
「蛇神の使い狐、嫌呂です。」
「同じく、悪鬼です。」
「よろしくお願いします。」
人の姿に化け、ペコリ。ケモ耳は残しました。
「万十のイツだ。よろしく頼みます。」
「氛冶のアヤだ。よろしく頼みます。」
「『社の司は、良那に居るアコ。他は話し合って、決めさせよ』との仰せ。」
大蛇からの言伝を、シッカリ伝える嫌呂。
「耶万は生まれ変わります。戻ったアコが社の司として、大王をシッカリ抑えられるよう、整えましょう。」
悪鬼、高らかに宣言。
話し合いの末、耶万の生き残りを集めて、伝える事にした。任せっきりはイケナイ。
「社の者と力を合わせ、新しい耶万を作ろう。皆、幸せになるために生まれてきた。そう信じて、生きよう。」
イツが言い切る。
「オォォ!」
みんなニコニコ、笑っている。
幸せになるために、生まれてきた。なんて美しい言の葉だろう。そうだ、その通りだ。
辛くて苦しくて、怖くて恐ろしくて眠れない夜。涙が涸れるまで泣いた。声が嗄れるまで、泣いた事もあった。死んでしまいたい。そう思った事も。
生きていて良かった。
死んだ者は戻らない。けれど、いつか会える。死ねば隠になって、この地に戻るのだから。きっと見守っている。そうだよね。
生きるよ。この命、尽きるまで生きる。いつか笑って会えるように、恥ずかしくないように生きよう。
お日様キラキラ、風はソヨソヨ。皆の心も、蒼天のように晴れている。
耶万編でした。大貝山編に続きます。 お楽しみに!