7-158 消えてしまっても
光の柱に閉じ込められた隠、妖怪。全て祓い清められ、闇が消えた。隠の魂も、妖怪の魂も、残らず消えた。
「クベ。」
・・・・・・姉さん?
「戻りなさい、クベ。」
嫌だ。ごめん、もっと早く戻れば。
「兄さん、戻って。」
ごめん。オレ一人じゃ、戻れない。
「戻って見張るの。耶万の人を、これからの耶万を。」
「私たちと同じ思い、させないで。」
でもオレ、死んだよ。隠になって戻ったけど、妖怪になった。ほら、額に角が生えて・・・・・・ない?
「確かにクベは妖怪よ。角はね、消えたの。耶万の闇と共に、消えたのよ。」
「だから兄さん、戻って。大石を守って。」
・・・・・・大石を、守る?
「そう、守るの。国は滅んだけど、人は生きている。」
「隠には守れなくても、妖怪になら守れる。」
そう、なのか? そう、かもな。隠の時は、隠や妖怪に触れるダケで疲れた。妖怪になってからは、疲れなかった。
そうか、妖怪なら守れる。
滅んで耶万に入ったけど、大石は残った。耶万にも居た良い人、戻った時に居なかった。きっと逃げたんだ。他の地へ、逃げ出したんだ。
神は御坐す。あの光、神の力だ。だから御坐す。だから生きてる、生き残ってる。そう信じて、戻ろう。戻って守るよ、大石を。
「私たち、ずっと遠くから見守ってる。」
「兄さん、一人じゃナイよ。」
そうだね。消えてしまっても、心の中で生き続ける。忘れない、ずっとずっと、忘れないよ。
「ミカも戻って。」
ミミも行くなら、戻るよ。
「私は戻れない。」
なぜ? こうして話せる、触れられる。
「神様がね、お別れの時を、くださったの。」
お別れ?
「そう、お別れ。」
嫌だ!
「私の心は、首飾りに。」
えっ。
「ミカ、加津を守って。首飾りを持って、ね。」
ミミの魂は、加津に戻ったんだね。だから今、こうして話せる。けど、もう会えないんだね。
オレ、戻るよ。離れていても共に。いつか生まれ変われたら、オレと契ってくれるかい?
オレは加津、クベは大石を守る。だから、いや違うな。ミミ、好きだ。大好きだ。神に御許し頂けるまで、加津で生きるよ。妖怪として。
「待ってる、いつまでも。忘れないでね、ミカ。」
忘れないよ。
「ミカ、大好き。」
大好きだよ、ミミ。
キラキラ輝きながら、三つの魂が旅立った。
「これから耶万、どうなるんだろう。」
「早稲や風見、万十とかイロイロ。出されたヤツが戻るさ。」
「逆らったヤツなら、任せられるな。」
ミカとクベは願う。皆が幸せに暮らせる、笑って暮らせる。そんな国に、と。