7-157 なぜ私は
タヤの死因を聞き為さった耶万神は、深く悲しみ、荒ぶられた。それからだ。社の皆から力が消え、祝が生まれなくなったのは。
耶万神は禍津日神だが、皆の幸せを願われる。どんなに小さくても、幸せは幸せ。その幸せを壊すなんて、有り得ない。
どうしても許せなかったのだ。女を二度、殺すなんて。
だから奪った、だから閉ざした。見えなくなると困るので、社の司には見せた。見えない物が見えるダケで、祝の力は与えない。
そう。耶万神はタヤを慈しみ、見守っていらした。そのタヤが・・・・・・。
「ダズゲデ。」
「ジニダグナイ。」
「ユルジデ。」
何奴も此奴も、助けろ? 死にたくない? 許せ? 寝言は寝て言え。骨と皮になっても、まだ求めるか。
「ギャァァァァァァ。」
「ヴォォォォォォォ。」
「ヴァァァァァァァ。」
ワラワラ寄るのから残らず奪い、急ぐ。
このままでは清められてしまう。その前に何としても、神を妖怪に変える。念珠を救うには、他に手立てが無い。
可愛い念珠、私の宝。必ず助ける、守り抜く。だから、もう少し待ってね。直ぐ戻るから。
「ギャァァァァァァ。」
なにコレ。社の周りにも、光の壁?
「えっ。」
手が透けて、ヒビが入ってボロボロと。
「タヤァァァ。」
この儀は大きい、大きすぎる。光の柱、一つじゃ無い。社に三柱、周りに三柱。だからね、タヤ。少なくても六柱、支えてるんだ。
清めの力を持っていても、触れたら消えるよ。
「ずっと共に、そう言ったでしょう。」
タヤに巻き付く。
「大好きだよ。」
グルグル巻き付く。
「タヤ。」
念珠から闇が注ぎ込まれ、崩れが止まった。ヒビは入ったままだが、動ける。
「生きて、タヤ。」
「ずっと共に。そうでしょう、念珠。」
「そうだね。」
なぜ私は、憎しみを抱いてしまったのだろう。仕返しなんて望まなければ、隠で居られた?
妖怪になったから、念珠に会えた。だから良いの。でも、会えなくなるのは嫌。だからね、このまま消えましょう。
私たち、奪いすぎた。私を殺したのだけ、殺せば良かった。それで止めて終わらせれば。
許せなかった、女を酷く扱う男が。女をモノ扱いする男が、女を甚振る男が。女の心と体を、笑いながら壊す男が、どうしても許せなかった!
直ぐに奪えば、多くの女を救えたのに。憎しみに囚われて私、動けなかった。
・・・・・・ごめんなさい。