7-154 無間地獄
南の地には湖が少ない。けれど川や沼、泉は多い。はじまりの隠神、大蛇は水神。水が有れば、どこへでも。
「さて、この辺りか。」
中つ国と根の国の境。鳶神、梟神、亀神が囲む地の真ん中。狙いを定め、清めの力を投げ込んだ。
「・・・・・・ヨシ。」
天つ国も根の国も、上から下から押さえるダケ。ソレはソレで、大事なのだが。
そもそも、これほどの大祓。やまと初! 幾ら隠神が強くても、何が起こるか分からない。鳶神、梟神、亀神の三柱に、清めの力を送るのが精一杯。
「蛇神?」
「良かった。」
「これで何とか!」
気を抜けば飲まれる。大祓は、三日三晩。まだマダ残っている。気を引き締めて、事に当たねば。
「堕ちろ、堕ちろ、堕ちろぉぉぉ!」
タヤが叫び、笑う。
耶万に居た人は、死に絶えた。他の地に居たか、逃げ込んだ人は生き残った。しかし、闇の力に苦しんでいる。
「さあ、さあ、さあ、さあ!」
どす黒い闇が渦を巻き、光の柱に襲いかかる。
「これだけの大祓、辛いでしょうねぇ。」
纏う闇を惜しげもなく使い、神神を追い詰めてゆく。
神なんて見てるダケ。助けてくれない、救ってくれない。ナニヨ、イマサラ。私は尽くした。なのに嬲られた、弄ばれた。
ねぇ、教えて。男ってのは女を、何だと思ってんの。穢されて喜ぶ女なんて居ないわ。なのに奴等、言ったのよ。『直ぐに気持ちよくなる』って。なるか!
だから殺した。
その前に甚振ったわ。ちょん切られたくナケレバってね。食わせたわ、犬に。あんなモンぶら下げてるから、罪を犯すの。そもそも、生きてて恥ずかしくないワケ?
下拵えを済ませてから、奪ってやった。直ぐには奪わず、ジックリたっぷり苦しめてネ。でもねぇ、ちっとも晴れなかった。だから蓄えたのよ、闇を。
「食らえぇぇぇぇぇぇ!」
ドクドクと闇が流れ込み、光の柱が濁り出す。
「怯むな、力を尽くせ。国つ神だろう。」
六柱の頭に、大蛇の声が響く。
「ヲォォ!」
神の雄叫び、闇を裂く。
「なっ! コレくらい、何とでも。」
「そうさ、タヤ。まだまだイケるよ。」
念珠と見合い、ニッコリ。
「大王ども。踠け、苦しめ。生まれたコトを悔いろ!」
「ごろじでぇぇぇ。」
「じなぜでぇぇぇ。」
奪った分だけ? それでは足りない。だから幾度も、食い破られる。繰り返し、繰り返し。
殺された者の痛みを、苦しみを、ジックリ味わえ! カラッカラになるまで、搾り取るからな。逃げられると思うなよ。