7-153 黄泉湖へ
耶万を三柱。殺神、風見神、早稲神。大貝を三柱。具志古神、津久間神、海神。隠の世より三柱。鳶神、梟神、亀神。中つ国で御力を揮われる。
これだけの大祓にも、タヤの闇は動じない。それだけ深い憎しみを抱いてしまったのだ。後に引けない? そんなコトはナイ。けれど、引けなかった。
「堕ちろ耶万! 闇よ、全て食らい尽くせ。」
耶万だけでは無い。耶万が滅ぼした村や国からも、闇が飛んでくる。
「積もり積もった恨み辛み。晴らしたければ、食らえ!」
耶万の大王、大臣、臣に社の司など。生きたまま剥がした、罪人の魂を掲げる。
「ヲォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
死んだのに、耶万から出られなかった隠。繰り返し妖怪に食われ、壊れた隠。食われ食われて、狂った妖怪。心を壊され、魂まで失った妖怪。
大貝山の統べる地に閉じ込められた、全ての隠と妖怪が、一つになった。
「グッ。」
闇が急に、勢いを増した。
「ヴッ。」
ドスンと、重く伸し掛かる。
「ハッ。」
歯を食いしばり、持ち直す。
六柱は御力を合わせ、闇に挑まれる。大貝山の統べる地から、決して出さない。出せない!
人の世の六柱。統べる地を閉じ、闇を止める大貝神。七柱の御力を合わせても、全く弱まらない。急ぎ動かなければ、ドバドバと流れ込むだろう。
「大蛇神、このままでは。」
隠の世の情報は全て、和山社に集まる。
「鳶神、梟神、亀神は。」
急を聞いて駆け付けた、使い蛇に問う。
「今は、何とか。」
ゼイゼイしながら、パチパチ瞬き。
「黄泉湖より、中つ国と根の国の境へ参る。烏神、狗神、鼠神。社を頼む。」
「はい。お任せください。」
キリッ。
大貝山の統べる地が堕ちても、和山は崩れぬ。隠の世の嶺が守られる限り、禍が齎される事は無い。
耶万や大貝など、どうなろうが構わん。マルの幸せが守られれば、それで良いのだ。南で幾ら死のうが、滅びようが知らぬわ。良村の者は、巻き込むなよ。
隠の世は閉じた。それでも闇は、ヒタヒタと迫る。隠の世のため、愛し子マルのため、潜るぞ!
水音を立てずスッと、大蛇の巨体が消える。
中つ国と根の国の境は、アチコチに在る。黄泉平坂だけでは無い。湖、海、滝、他にもイロイロ。その一つが、黄泉湖。
魂呼湖、魂迎湖、底なしの湖を結んだ、真ん中に在る。人の世では、見る事すら出来ない。隠の世からしか入れず、やまと一大きい。
むかし昔の、その昔。根の国からドカンと、闇が噴き出す。『気持ちよく寝ていたのに』と御叫び遊ばし、大蛇神。霧雲山の水を残らず、大穴に打ち込み為さった。
チョッピリ反省。
以来、隠の世から漏れ出ぬよう人の世から切り離し、和山社が取り仕切っている。