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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
釜戸社編
51/1615

4-5 舟は谷へ

ギイー、ギイー。


舟はゆっくり、確かめるように進む。鳥の谷は狭く、流れが早い。水飛沫を上げ、襲いかかる。ナオは若いが、良い水手だ。どんな流れも乗り切る。


犬の遠吠えが聞こえた。みな、それぞれ動き出したか。


「ハァァァ。」


守り長カイは思わず、長いため息をついた。罪人たちがモゾモゾ、モゾモゾと、凄い目で睨みながら動き続けている。


「疲れないのか、早稲の。まだ諦めていないのか。いくら暴れても、逃げられないのに。」


「ンガァァ。」


早稲の村長と倅は、諦めたのか、おとなしくなった。しかし、タツは変わらない。


「長、鳥の谷を抜けました。」


「そうか、もうすぐだな。」


舟は森に入り、重々しく進む。犬が吠え、舟にあわせて走る。グワッと乗り上げるように舟が浮き、湖に入った。源の泉だ。




「早かったな、カイ。」


「ゴン、来たのか。」


二人の長が手を取った。


「ヒデ、ゴウ、手を貸してくれ。」


罪人を繋いでいる縄を、丸太から解くと、一人づつ引き立てる。いくら暴れても、三人とも狩り人。それに何より、殺された子の親だ。勝てっこない。



「フサ、頼む。」


「ああ。」


ゴンほどではないが、大きく、ガッチリしている。ナオは、ほっそりしている。二人は乳兄弟。慣れた手つきで、舟を車に乗せ、縄で縛る。



「守り長、皆さま。お気をつけて。」


「ありがとう。二人も、気をつけて。」


「はい。ありがとうございます。」


一礼すると、釣り人の村へ帰っていった。




「さあ、行こうか。」


狩り長が言うと、おとなしくなった。


「歩け。」


ヒデとゴウは、罪人を担ぐつもりでいた。が、驚いた。考えられている、と。


両の手足とも、きつく縛られている。しかし、足は歩けるように縛ってある。はじめから歩かせるつもりだったのだ。犬がついてくる。良く躾けられており、無駄吠えしない。


罪人一人につき一匹。鋭い目で、見張るように歩く。



日が暮れる頃、小川を越えた。泉で休まず、そのまま進み、狩り人の村に入った。夜が更けていた。




釜戸社。釜戸山の灰が降る、すべての村を取り仕切る。


何かあった時、裁きを下し、仕置を執り行う。すべての責、科を正す。釜戸社の祝が決め、定めたことには、必ず従う。違う考えを述べたり、逆らうことは許されない。



釜戸山には三つの村がある。そのすべてに罪人を留め置くひとやがある。祝による裁きを待つ間、酷い扱いを受けることはない。たとえ、どんな罪人であっても。



「入れ。」


早稲の長と倅は従った。しかし、タツは激しく逆らう。


「グガッ、グググァ。」


叫んでも、何の役に立たない。


「暴れるな。」


ゴンの低い声が響く。



ヨシ、ヒデ、ゴウの三人が、何も言わず、罪人たちを引き離す。それから、太い丸太に縛り付けた。両の手足と、胴を。決して逃げられない。


「ガァー。グガァー。」


タツが叫ぶ。犬が近づき、低く呻った。


「犬に見張らせる。」


ゴンが言い切った。タツは怖くなった。逃げられる。そう思っていたから。




「狩り長。ワシら、代わり合って、見張ります。」


子を奪われた三人の父は、燃えるような目をしていた。何があっても、逃がさない! 思いは一つ。


「わかった。外に見張りがいる。何かあったら、言ってくれ。」


手負いの獣のように、鋭い目。三人とも、強い狩り人だ。いつも落ち着いて、穏やかだった。なのに、変わった。我が子の、変わり果てた姿を、見てしまってから。


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