7-151 負けない、諦めない
「なっ、にが。」
物凄い勢いで、闇が抜けてゆく。
「ま、さか。」
この感じ。清めだ。
逃げようにも逃げられない。一山から掘り進めた穴は、残らず塞がれた。徒の妖怪では無い。使わしめ、それも地蜘蛛の大妖怪に。
袋状の糸がビタッと貼り付き、剥がせない。そのうえ、詰められている。グルグル丸めて突っ込まれた、蜘蛛の糸が。
「ね、ず。」
いつも側にいてくれた、愛しい念珠。あなただけでも、逃げて。
「タヤ! 諦めないで。」
闇を取り込めるだけ、取り込んだんだ。こんな光なんて、飲み込んでしまえ!
「諦めないよ。」
「そう、ね。しっかり、しな、きゃ。」
見た事は無い。けれど、聞いた事は有る。大祓、神の儀。天つ国、中つ国、根の国。真っ直ぐ伸びる光の柱。取り込まれれば、決して外へ出られない。
天つ国と根の国の神には何を、どうしたって敵わない。中つ国の神なら、飲み込める。だって三柱。
・・・・・・いいえ、もう三柱。隠の世と人の世。どちらからも? フフッ。でも負けない、諦めない。
「グッ。」
「ヴッ。」
闇が、深く濃い闇が絡みつく。何だコレは。そうだ、根の国の闇だ。
「ミカ、クベ。大王と大臣、社の司、巫、覡。纏めて、搾り取るわよ。」
「は、い。タヤ、さま。」
「仰せ、の、まま、に。」
フラフラ歩いて、ゾロゾロ連れて来た。
ミカもクベも他の妖怪よりは闇に強いが、とても辛い。思ったより闇が濃いダケ。そう己に言い聞かせ、動く。
「ダズゲデェ。」
「ユルジデェ。」
「ジナゼデェ。」
死んで、いや殺されて隠になった。妖怪に食われても、なぜか戻る。幾度も戻る、繰り返し戻る。
痛みも苦しみも、全く消えない。ズンズン積まれ、ドンドン増える。それでも死ねない。
やっと解った。
多くの臣や民を、物のように使い捨てた。多くの女を弄び、壊し、奴婢にした。珍しい毒、戦の具。他にもイロイロ手に入れて、耶万を強く大きく。
その末が、コレ。ざまぁナイなぁ。
前の大王、その前の大王、その前の大王。その前の大王も殺された。倅も死んだ、殺された。
残ったのは何だ、何が残った。・・・・・・何も。言われるまま、求められるまま奪い奪って、こうなった。
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
耶万に囚われた隠、妖怪。残らず搾り取られ、スッと消えた。骨も残らず、スッと消えた。