7-144 動いたのか!
霧雲山の頂を守るのは、祝辺の守。山守社を守るのは、山守の村。
山守神は、生け贄を求める。と、言われている。霧雲山で暮らす人の中から選んでいたのだが、とうとう足りなくなった。
祝辺には手が出せない。出せば山が、霧雲山が崩れる。
昔、祝辺の娘を選んだ。生け贄に捧げて直ぐ、山守の地が割れた。水が噴き出し、祝辺と山守の間を流れる、大きく深い川になった。
それからだ。祝辺の人が、選ばれなくなったのは。
「山守に兵を、育てさせる。」
「・・・・・・えっ。」
影を見つめる、桧たち。
南から、大国が攻めて来る。この度は、耶万の闇が片付けるだろう。しかし次は、その次は。
耶万の闇だって、このまま止まるとは限らない。雲じゃナイから分からないが、見えない何かが動いている。
しかし隠や妖怪が、いつでも守ってくれるのか。違うだろう、きっと。
祝が見るのは、いつだって酷いモンさ。この度だって、選んだ一つに死ぬのが有った。
北山の生き残り、祝の力を持つ子らが戦う。
どんなに強い力を持っていても、子は子さ。力尽きて死ぬ。南から攻めてきた舟には、多くの兵と戦の具。
戦うよ。
はじめは山裾の人たち、次に周りの人たち。オレたち忍びは南へ急ぎ、大王や大臣を殺す。戦を止めるためにな。
残るのは川田、馬守、良村。獣谷、遠野、山中、小出の隠れ里。他は滅ぶ。
その道は閉ざしたから、死なないよ。けどな、豊田の外れに集まる、悪しき考えに囚われた人たち。
どこかへ閉じ込めなければ、戦を起こす。隙を作って、南から呼ぶんだ。禍を!
そうなる前に、手を打つ。
周りに里も村も無い、広くて近い山。魂食山か、流山か。どちらも難しい。霧雲山に放り込むしか、ないだろう?
「妖怪から、聞いた話だ。」
雲が静かに、話し出す。
耶万から、闇が溢れた。
中つ国は隠の世と、人の世の二つ。近いんだ。人の世で溢れた闇が、隠の世に流れ込む。だから、閉じ為さった。
隠の世を統べる蛇神は、はじまりの隠神で在らせられる。やまとの隠神は議られ、御決め遊ばす。隠の世を守ると。
国つ神から助けを求められても、動かない。天つ神なら、考える。考えるだけで、動かない。
『人の事は人で、人の世は人で』それが、蛇神の御考え。その上で守り抜くと、御決め遊ばす。
耶万へ。闇に強い狐を二妖、送り込まれたそうだ。
多くの隠や妖怪が、南からの兵を一人残して、片づけ為さった。こちらへ向かっている舟も、サッと片づけ為さるだろう。
「浜木綿の川から入った、南の舟。早稲と風見が多くを、残りは祝辺。隠の守が片付けた。」
「烏神様!」
雲、サッと平伏す。
見えるのは雲だけ。他の忍びには、全く見えない。見えないが平伏した。ここは天霧山。人の世には国つ神、隠の世には、隠神様が御坐す。
・・・・・・ん、祝辺の守? 動いたのか!!